第494話 金貨は巡る
リクレールはアルトイリス領内の人口増加を見込んで、ガムランに命じアルトイリス城の城下町や、アンクールの町などに住宅を増設させており、それを無理のない価格で払い下げすることで、建築費を回収しようとしていたのである。
「確かに……家を買えれば、ずっとや土台を支払う必要は、ないよな」
「もらった褒美の半額にも満たない金で家が買えるなんて! よっしゃ、俺はまず家を買うぞ!」
「俺も俺も!」
目論見は見事に的中し、ガムランの元には家を持たぬ兵士たちが大勢押し掛けた。
兵士たちが褒美としてもらった金は、どんなに少なくとも金貨100枚を超えており、その5分の1の値段で家が買えるというのであれば、安く感じるというのも無理はなかった。
それに、彼らの大半は生まれてからずっと貧乏で、金貨を持ったことすらない者も大勢いたことから、お金の使い道をよくわかっていないというのもあり、確固たる消費プランがなかったことも家の爆売れを後押しした。
ガムランが連れて来た契約締結手続き専任の役人たちが、机の上で次々に権利書を発行し、交渉を纏めていく。
ただ、それでも希望者があまりにも多かったせいで、すべてのものが契約を結び終えるのに、このあと10日も擁することになる。
「流石ガムラン、こういう時は本当に動きが素早いね」
「にょっほっほ! 誉め言葉として受け取っておきますぞリクレール様! わたくしめは儲けの機会は決して見逃したりは致しませんぞ! それに……こうなることを見越し、家屋の建築をお命じになられたのは、リクレール様でございますからな! やはり貴方様は、どの商人よりも商才がございますな!」
「貴族に商才があるって、なんか変な気分だけど……けど、彼らがこれからもこの領地に住んで、この領地で生活して、そしていろんなものにお金を使って、働いてくれるようにすれば、豊かとはいえないアルトイリス領も、一気に繁栄していくだろう」
「左様でございますな! 褒美として与えた金貨は、いずれ彼らの手元を離れる……我らは、彼らが金貨を手放す場所をこの地に用意する……! 実に愉快でございますな!」
ガムランの言う通り、リクレールの真の目的は、まず兵士たちをアルトイリス領に定住させ、そこで褒美の金を使わせることで、領内の経済に還元することだった。
まだ「経済学」という概念がないこの時代で、すでにこのような発想を持っているリクレールとガムランが、いかに先進的かがよくわかる。
「それにしてもリクレール様、驚きましたぞ。まさか、あの金が命よりも重いと考えるような都市同盟の商人たちを相手に、我が領の収入の何倍もの金を差し出させるとは! 国庫に送られてきた大量の金貨を見た時、わたくしは興奮のあまり■■■■するところでしたぞ!」
「えっ」
「じょ、冗談ですぞ! ですからそのような冷たい目を向けないでくださませ! そ、それより、あれらの大金の使い道はもうお決まりで?」
「うん……やりたいことは、それこそ山のようにある。いったいどれから手を付けようか、考えるだけでもワクワクするくらいだ」
「な、なるほど!」
ガムランも臨時収入の使い方にいくつか腹案があるようだったが、どうやらリクレールはそれ以上にいろいろ考えているようで……
なにかのスイッチが入ったかのように、ニチャっと笑うリクレールを見て、ガムランは内心で嫌な予感を抱いた。
「ガムラン」
「は、はいっ!」
「平和になったから好きなだけたくさん食べていいよ♪ そして、体重が戻ったら、色々と頼みたいことがあるんだ♪」
「にょおぉぉ……」
そう遠くないうちにまた酷使してあげる宣言に、ガムランは情けない悲鳴を上げることしかできなかった。




