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第491話 最強アルトイリス軍

 まだ、マリアが生きていた頃、アルトイリス侯爵は3000人を超える精鋭の騎士団と、5000人以上の正規兵を持つ西帝国有数の軍事大国であった。

 しかし、魔族との戦いで軍は壊滅し、マリア自身も戦死し、生き残った騎士のほぼ全員が侯爵家を離れたことで、一時はわずか500人に満たない規模にまで縮小してしまった。

 あの頃のアルトイリス軍の栄光を取り戻すのは、帝国に住む人々や、アルトイリス侯爵領で代々生きて来た忠実な民たちでさえ、不可能だと持っていた。

 だが――――戦場から帰還したアルトイリス軍が、アンクールの街の大通りを厳かに行進しているのを見た時、彼らは自分たちが間違っていたと思い知らされることになる。


「す、すげえ……これが侯爵様の軍! 出陣で見送った時よりも、滅茶苦茶強そうに見える……!」

「これが、噂の新生アルトイリス軍……フォントラル侯爵軍を一方的に打ち破って、ブレヴァン侯爵領を数日で占領して、そして何万人もの大軍相手に正面から戦って撃ち破ったという……」

「それに……恐ろしいくらい、隊列がきっちりしている。まるで殺戮のための人形のようだ。これが、本当に元はあの薄汚い傭兵たちだったのか!?」


 マリアが生きていた頃、騎士たちが出征するたびにその姿を見送ってきたアルトイリス領の人々は、騎士ですらない元一般人や喰い詰めた傭兵の寄せ集めだった兵士たちの姿に、一種の恐ろしさを感じたという。

 地獄の訓練を乗り越え、幾多の戦場で命を懸け、そしてその対価として一般人が生涯かけて稼げるかどうかという大金を、褒美として受け取ったアルトイリス兵たちは、もはや一人一人がプロフェッショナルといった顔つきで、服に付着した泥や血の跡が、彼らの活躍を物語っているようだった。


 また、この度の戦いで大活躍した武将たちにも、惜しみない拍手や賛辞が投げかけられた。

 まず、リクレールの強い要請で、一介の庶民から部隊長に抜擢されたアリシアが、親友のレティシアとワディド、そして師匠と仰ぐ老婆と共に軍の先頭を進んだ。


「やっと、帰ってこれた。なんだか、今頃になってドッと疲れが出て来たかも……」

「そんなこと言ってアリシアは全然緊張してないじゃん。ワディドも」

「う、うん、わたしも……いまはちょっと、ほっとしている気持の方が強いかも」


 続いて、軍の中でも特に異様な雰囲気を纏う、黒色で統一された騎士団……デルセルトの黒鼬隊が、堂々とした足取りで進む。

 また、途中で仲間に加わったエルヴィユ侯爵家のサロメと、その従者テュレンヌも一緒だ。


「ははは、英雄になるのは気分いいぜ。今ならどんな美人も漁りたい放題だろうな」

「まあデルセルト様、英雄になったからには、女性にも紳士的な態度で臨むべきですわ」

「いや、なんで俺がお前に指図されなきゃいけねぇんだ……」

「……デルセルト様に置かれましては、少し察していただけたらと」


 これから彼らは、取り戻した自分の所領に戻ることになるが、これからもアルトイリス軍の中核として活躍が期待される。

 その後も、フルトヴェングラー、ジェニファー、ナナリーと今回の戦いで活躍した武将たちや、士官学校の学生たちが続き…………


「リクレール様だ!」

「キャーッ♡ リクレールさまーっ♡」

「リクレール様のおかげで、アルトイリス侯爵家も、西帝国も大安泰だ!」


 左右に馬に乗ったサンシールとスーシェを引き連れて、堂々とした体躯のネージュに跨って周囲に大きく手を振るリクレール。

 そこには、もう誰もがか弱いと思うようなちっぽけな少年の面影はなく、堂々とした若い支配者の姿があった。

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