第489話 敗者への慈悲
さて、勝者への報酬の次は、敗者への対応も行われた。
マルセラン側に加担した大半の有力諸侯や貴族は、帝都奪還直後に大多数が捕らわれ、一族もろとも処刑されたことで、この世から退場させられたが、中には諸事情あって生き残ることを許された者たちもいる。
「フォントラル侯爵ビゼー、そなたは西帝国の重臣であるにもかかわらず、ブレヴァン侯爵の計画に加担し謀反を起こした、その罪は重い。しかし、アルトイリス侯爵からは、そなた自身には叛意はなく、周囲……特にブレヴァン侯爵派の婦人に諭されたからだと聞いている。そのことに相違はないな?」
「はい、相違ございません……」
「よろしい。話によれば、そなたは自ら妻や子を泣く泣く処断したと聞いている。その姿勢に免じ、領地の半分は没収するが、侯爵称号は今まで通り名乗ることを許そう」
「寛大なお心遣い、誠に恐縮でございます」
そう言ってビゼーはレオニスの前で深々と頭を下げた。
今までの人生をかけてやりくりしながら周囲の貴族家を併合して拡大した領地を手放す羽目に放ったが、帝都で多くの有力諸侯らが火あぶりにされたのを見て、むしろ領土の没収だけで済んで助かったと心の底から実感するのだった。
「そして、ブレヴァン侯爵トライゾンの嫡子クレゼール。そなたの父は獄中で病死したが、本来はそなたも含め火刑に処されるほどの重罪であることは疑う余地もない。だが、あると居留守侯爵率いる解放軍に対し、戦うことなく降伏し、無駄な流血を避けたことは称賛に値する。刑に処することはせぬが、その代わり領地のいくつか、および侯爵称号については剥奪し、はkす箔称号のみ名乗ることを許すものとする」
「はっ、陛下の深いご慈悲に感謝いたします」
ここで言う侯爵称号の剥奪とは、西帝国の侯爵家は侯爵称号の他に「ブレヴァン伯爵家」というように伯爵称号も同時に持っており、侯爵称号だけ没収するということは、その貴族家は事実上伯爵家に格下げされることを意味している。
過去に侯爵家が伯爵家に事実上の降格となった事例はそれなりにあるが、西帝国でも有数の規模の侯爵家が事実上の降格となるのは前代未聞であり、今後クレゼールは父親と家の名声を犠牲にして自分だけ生き残った卑怯者と罵られながら生きる羽目になるだろう。
だが、それでも彼は、何の取り柄もない自分が汚名を被ることで、一族が残るのであればそれでよいと腹をくくっていた。
もしかしたら、自分が死んだあと何代か後に、ブレヴァン家が力を取り返す可能性だってあるのだから。
こうして、悲喜こもごもあった論功行賞は全て終わり、レオニスの元で西帝国の新たな時代が始まった。
リクレールをはじめとした、若い有力諸侯が台頭しつつあるこの国が、この先どのような運命をたどるのかは、まだ誰にも分らない。




