第487話 聖斧サルバシオン
兵士が10人がかりで担いできた、何やら古くて重々しい雰囲気を醸し出す立派な木箱…………
彼らが慎重にその場に下ろし、箱を開くと、そこには見事な装飾が施された大きくて立派な斧が入っていた。
そして、それを見た瞬間、リクレールの身体……いや、エスペランサの全身に一気に緊張が走った。
『あれは、まさか……!』
(知ってるのエスペランサ?)
『あれこそ、三種の聖武具の一つ……聖斧サルバシオンでございますわ!』
(聖斧サルバシオン!?)
その斧は、人の頭を超えるほどの大きさの刃が両面にあり、片側は曇り一つない鏡のような滑らかさで、もう片側は岩を砕くような荒々しい造形をしている。
柄は黒壇に銀と鋼の装飾が補強として施されており、一目見るだけでも「重そう」という印象を抱かせている。
「れ、レオニス様……この斧は一体!?」
「これこそ、我が西帝国に伝わる聖なる武具の一つ、聖斧サルバシオンだ」
「聖なる武具!? アレグリアやバリエント以外にも、そのようなものがあったなんて!」
果たしてエスペランサの言っていたことは正しかった。
西帝国の皇室がこの武器を所有していたことはあまり知られていなかったようで、出席者の大半が初めて見る聖なる武具の存在に圧倒されていた。
「ザイドリッツは常々、いつか自分だけの特別な武器が欲しいと言っていたね。これは、西帝国の宮殿の奥で保管され、長い間持ち手が現れなかった。だが、君さえよければ、手に取ってみてほしい」
「い、いいんですか!?」
ザイドリッツは恐る恐る聖斧に近づき、意を決してその重厚な柄を握りしめると、ゆっくり持ち上げた。
見た目に反して、斧はまるで使い慣れた武器のようにスッと持ち上がり、周囲の兵士や貴族たちから「おぉ」とどよめきの声が上がる。
それもそのはず……この斧が今まで誰にも見向きもされなかったのは、使い手として認められない人間が持ち上げようとしても非常に重く、まるで大きな岩を運ぶように、10人がかりで持ち上げなければならないからだ。
今回兵士たちが大勢で慎重に担いできたのも、そう言う理由があったからだ。
だが、一人でこの斧を持ち上げられたということは…………すなわち、聖斧サルバシオンが、ザイドリッツを使い手として認めたということである。
「す……すげぇ! こんなに手に馴染む武器は初めてだっ! それに、なんだか身体の奥から、勇気が湧いてくるようだ!! レオニス様、本当に俺が使ってもいいんですよね!」
「勿論だとも。サルバシオンは古帝国語で「守護」を意味するそうだ。これからも、その斧と共に、西帝国を守っていってほしい」
「ありがたき幸せっ!!」
自分だけの武器……それも世界に三つしかない「聖なる武具」の一つを下賜されたザイドリッツは、よほど気に入ったのか、両腕で大切そうに抱えて涙を流していた。
「よかったなザイドリッツ、お前の働きの賜物だ」
「文献でその存在だけは知っていましたが、実物を目にすると、書物に書かれていた文字などでは、その真の姿を伝えることなど到底できないのだとわかりますね」
「ザイドリッツさんは、レオニス様だけでなく、私たち遊牧民のことも護ってくれましたから……守護の斧を振るうのにふさわしいのではないでしょうか」
戦友のビュランとベンジャミン、そしてキトレルも彼が聖武具の所有者になったことを大いに喜び、拍手とともに祝った。
これで、政治的にだけでなく、特別な武具の持ち主としてもリクレールに気後れしない人物になったわけだが、今はそのような些細な事を気にすることなく、友人たちとして本心から喜んでいた。
さらに……
「あれが聖斧サルバシオン! この前のウルスラ先生の授業で知った武器だ!」
「いいな……俺もあんな特別な武器持ってみてぇな」
「私も初めて見るけど、なんていうか、存在だけで圧倒されるわ……」
シャルンホルストやゼークトら紫鴉学級の生徒は、リクレールが受けた最後の授業の時に話題に出た聖武具が、今自分たちの目の前にあることに、驚きと感動ですっかり身体が前のめりになっており、ウルスラ自身も知識で知っていただけの伝説の武器を実査に自分の眼で見られるとは思わず、ただただ圧倒されて立ち尽くす。
『……周りの者たちはいいとしまして、主様はあまり聖武具に見惚れないでいただきたいですわ』
(ご、ごめん!)
そして相変わらずほかの武器に嫉妬する魔剣エスペランサであった。




