第480話 実戦訓練終了
こうして、アルトイリス軍とユルトラガルド軍からなる西帝国軍は、国家予算をも超える多額の賠償金と引き換えに自由交易都市同盟と停戦協定を締結した。
南区画に戻ったリクレールたちは、事の次第を主要メンバーに通達すると、すぐに設置中の兵器をすべて解体させるとともに、都市同盟から受け取った賠償金をきっちり確認し、金貨1枚でもきちんと足りているかチェックしていった。
そして、最終的に賠償金が満額払われると同時に、ランツフートが帝都から戻ってきたことで、正式な講和が結ばれることが確定した。
「すまんな、リクレール。結局レオニスに意見を翻させることはできなかった。やはり、今年の冬に食糧危機を発生させるわけにはいかないとのことだ」
「いえ、いいんです。レオニス殿下がそう決めたのであれば、アルトイリス侯爵である僕は従うだけです。それに、停戦と引き換えに十分賠償金も取れましたから」
「まさか本当にあれだけ搾り取るとは、たまげた奴だ……商人どもも、金で命を買えるのであれば安いもんなんだろうな」
「それと親父、残念だが、ブレヴァン侯爵の令嬢フランシールは、結局行方が分からなかった。せっかくここまでお膳立てしてくれたのに、逃げられちまった」
「そうか……相手もタダでは死なんということだな」
めんどくせぇなと言いたげに目頭を押さえるランツフートだったが、気を取り直して、あまり表情が明るくない二人の肩を力強くポンポンと叩いた。
「ま、今は気にしても仕方ねぇ! むしろお前らはよくやった! あとは俺たち大人に任せておけ!」
「「はいっ!」」
実を言えば、リクレールもシャルンホルストも、それにほかの士官学校の生徒たちも、有利な戦いだったとはいえ常に緊張した日々を送っていたこともあって、誰もかれもクタクタだった。
実戦訓練の名目で冬のアザンクール山脈を越えてから、そろそろ半年が経とうとしており、季節はすでに中春(5月頃)も終わりを迎える。
東帝国出身の生徒たちはそろそろ故郷が恋しくなって久しく、教師たちにとってもさすがに授業の進捗遅れが気になるところだった。
実戦に勝る学びはないとはいえ、士官学校生徒たちにこれ以上長く戦いに付き合わせるわけにはいかないだろう。
そのようなわけで、当面の戦後処理はランツフートをはじめとするユルトラガルド侯爵家の将軍や騎士たちが務め、学生やアルトイリス軍の兵士たちはリヴォリ城に戻って休息を取ることになった。
帝都では既に自由交易都市同盟との講和条件が整ったという知らせもあり、少なくとも10日以内には両国間で正式な講和条約が結ばれることだろう。
そして――――
「紫鴉学級、青狼学級、そして橙鷹学級の諸君。半年にわたる実戦訓練は、今日をもって終了となる」
リヴォリ城の広間の一室に集められた生徒たちの前で、青狼学級教師のローレルがそう告げると、学生たちから大きな歓喜の声が上がった。
「やっと……やっと終わったんだ! あぁ、私生き残ったんだ……!」
「もう内乱は終わたんですね!? これ以上戦いは起きないんですね……やったーっ!」
「はぁ、いつか死んじゃうんじゃないかって思ってたけど、よかった、生きてる」
他半の生徒はやはり半年とはいえ戦いに告ぐ戦いに嫌気がさしていたらしく、素直に安堵の表情を浮かべ、学校に帰れることを喜んだ。
戦いで活躍した者も多かったが、なんだかんだ言って彼らもまだ子供だということがよくわかる。
「はー、これで全部終わりか。俺はもうちょい行けたな、都市同盟の連中を最後まで追いつめたかったぜ」
「あたしはもっと突撃したかった! 次の戦争はいつかな?」
「くくく、書物では得られない、本物の戦場の深淵を覗けたのは、実に僥倖だった。我が使命はやはり戦場という深淵にあることを理解した……!」
「お前らは何で残念そうなんだよ、おかしいだろ」
もっとも、ゼークトやスーシェ、サンシールのようにまだ「やる気に満ちている」者たちもいて、級長のシャルンホルストを呆れさせてはいたが。




