第476話 共和制とは
都市同盟の議会が紛糾してるのを横目に、リクレールたち三人は用意された宿舎に逗留し、彼らが結論を出すのを待った。
もっとも、ただ待っているだけではつまらないので、日中は各自思い思いに過ごしていた。
ヴィクトワーレは鍛錬を行うついでに、自分の武をハキナトリアの市民に見せつける為、宿の庭で様々な技を披露していた。
特に、弓で300ラザル(約280メートル)先の的に矢を命中させたことは、市民らにとって非常に衝撃的であった。
一方シャルンホルストは、ここぞとばかりに宿の近くの酒場に赴き、ミルクを片手に賭場でカードゲームに興じていた。
途中までは適度に勝ったり負けたりだったが、後半は店がイカサマしてきたのを確認して、シャルンホルストもそれを上回る技で対抗し、ボロ勝ちする。
その際店はシャルンホルストを懲らしめようと、雇っていた用心棒を繰り出して脅し、勝ち分を取り返そうとしたが、シャルンホルストは敵側の使者として来ていることを明かし、自分に手を出したら交渉が破綻するぞと逆に脅して、店から大金をせしめるのだった。
そしてリクレールはと言えば――――
「この国の政治体制はずいぶんと変わっているね。国と言っていいのかはあれだけど」
『当人たちが独立を主張し、帝国も国として相手している以上、一つの国家に違いはありませんわ主様。主様は共和制に興味がおありで?』
「うん……皇帝や領主がいなくても、一般庶民だけで国を運営していくことも、意外とできるんだなと思って」
リクレールは自由交易都市同盟の政治体制である「共和制」にかなり興味を持ったようで、わざわざ議会の成り立ちが書かれている書物をいくつか買いあさり、心地よい陽の光の下で読書に没頭している。
『そうですわね。国家と言うのは畢竟、ある程度まとまることさえできれば、必ずしも皇帝や領主がいる必要はございませんわ。それに、彼らは別に統治者を擁立していないわけではありません。彼らは自分たちの中から、自分たちの領主となる人物を選び、彼らに統治を託しているのですわ』
「民が統治者を選ぶ、か……」
この世界において、共和制と言う政治体制は古代から何度も試みられてきたが、現在は大体帝国のように代々皇帝とその一族が治めるか、もしくは遊牧民のように有力氏族の家長が長となるか、はたまた魔族のようにもっとも強い者が指導者となるかのいずれかが主流になった。
共和政治は殆ど過去の遺物扱いであり、そのような手法があったことさえ多くの人は知ることもない。
「ただ、意外だったのは、ここに住んでいる人全員で統治者を選べるってわけでもないみたい。投票できるのは一定以上の資産を持つ人……最低でも一軒家を持てる人か。そして、彼らが選んだ議員の中で、政治の最終的な決定権を持つ執政官を選ぶと。そう言えば停戦交渉で実際に僕たちと相対したのは、あのお爺さんも含めて10人くらいだった。ってことは、名目上はあの人たちが統治者になるんだろうか……」
『左様でございますわ。都市同盟は基本的に「市民」が一人一人政治に携わっていると謳っておりますが、実際のところ主に政治を行うのは、投票活動によって選出された議員が行っております。そこからさらに重要な決定を下すとなれば、やはりそれ相応の高い権限が与えられた少数の有力者の占有事項となるのでございます』
「乱暴に言えば、庶民が貴族を選ぶってことか」
当然のことながら、帝国では貴族とは生まれがすべてであり、どれほど能力が低くとも、庶民を支配する権利が与えられている。
かく言うリクレールも貴族としての恩恵を受けている以上、制度を批判すればすべて自分自身に帰ってくることになる。
もし、帝国でも貴族を庶民が選べる権利があったとしたら、リクレールは今頃貴族の地位を追われていたに違いない。
『ですが、共和制は確かに庶民にとってはよいかもしれませんが、わたくしはむしろ共和制は欠陥だらけの愚かな制度だと考えておりますわ』
「愚かな制度?」
共和制には一定の理解を示していたエスペランサだったが、やはり彼女の心情的には受け入れがたいもののようだ。




