第474話 商談
リクレールが彼らに厳しい現実を突きつけた後、今度はシャルンホルストが前に出て来た。
「まあまあ皆さん、今度こそビビらせて申し訳ない。皆さまは商人なので、ここはお互いに納得するよう「商談」しましょう。何も俺たちは、あなた方に損ばかりさせに来たわけではないんです」
「商談ですか……あなた方は我らに何を提供するというのです」
老齢の女性執政官ローレルリンが、怪訝な顔をしながらも、商談であれば場合によっては幾分か優位を引き出せるかもしれないと息巻いていた。
「まずはあなた方にお借りした船が200隻ほどありますので、これらをすべてお返ししましょう。船はあなた方にとっては欠かすことができない財産でしょうから」
「……まあいいでしょう、確かに貴方がたが奪った船をそのまま返却いただけるなら、それ相応の金銭は支払いましょう」
どさくさに紛れて奪った船を、賠償金と引き換えに返すというシャルンホルスト。
都市同盟の人々からしてみれば、盗人猛々しいとしか言いようがないが、そのまま奪われたままよりかは遥かにましなことは確かだ。
200隻もの船を再度建造するなど途方もない時間と金がかかるし、シャルンホルストは捕えて無理やり働かせていた船員まで解放してくれるというのだから、悪い話ではなかった。
「あとは我らが捕えた議員や兵士、それに有力者らもそちらにお返ししましょう。もちろん、賠償と言う名の身代金と引き換えではありますが」
「なるほど…………捕虜を返還していただけるわけですか」
船に続き、議員や兵士、それに都市同盟を支える有力な商人たちが帰ってくるのであれば、確かに金を支払うだけの価値はある。
ただ、正直なところ、兵士の一部……傭兵などは別に返してもらいたくないのだが、名目上彼らも守備隊の一部なので、いらないとは言えないのが歯がゆいところだった。
「確かに、これだけのものを返還していただけるのであれば、それ相応の賠償金の支払いには同意いたします。ですが……それでもなお、そちらの要求はあまりにも高額すぎます」
「勿論ですとも。むしろここからがメインの商品のご紹介です」
まるで商人になったかのような、スムーズなセールストークを披露するシャルンホルストに、ベテラン商人ばかりの評議員たちは神経を逆なでされたが、今は黙って彼の話に耳を傾けるほかない。
「我々が今占領しているハキナトリア南区画……ここを無傷でお返ししましょう」
「ちょっとまて、それのどこがメイン商品なのだ」
今度はリヤンドールが困惑した様子で会話に割って入ってきた。
「ここで交渉せずとも、この戦いが終わった暁には、ハキナトリアは我らの手に戻る。ゆえに、そなたの提案は成立しない」
「いやいや何をおっしゃる。俺は「無傷で渡す」と言った。ハキナトリアの街は確かに巨大ですが、それゆえ建物が密集しすぎいますよね。そんなところで火事が起きたら、下手すれば南区画の大半の家に延焼してしまうかも」
「……………っ! き、きさまら、まさか……!」
「そんなわけで、俺たちが代わりに「防災」していますんで、そのお代を支払っていただきたいんですよ」
要するに、シャルンホルストは「金払わないと南区画を全部燃やして破壊する」と脅してきているのである。
確かに帝国との講和交渉では、占領した都市を返還してもらえる方向で話が進んでいるが、その条件に「建物を無傷で返す」というのは含まれていない。
帝国からしてみれば、占領地を返してもらえるだけありがたく思えとしか言いようがないからだ。
「この……悪魔どもめ!」
リヤンドールは絶望のあまり、喉から絞り出したようにそう言うが、シャルンホルストは営業スマイルを崩さない。
「というわけで、船の返却で30万、捕虜返却で20万、そして「南区画の防災活動費」で200万。しめて250万リブラ、一括で支払っていただきたい」
「ぬ……ぬうう」
長老バランディーニも、相手のやりたい放題な要求にはらわたが煮えくり返っていたが、もはや打つ手はなく、唸ることしかできなかった。




