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第473話 お前が言うな

『ふふふ、ヴィクトワーレ様のおかげで交渉の天秤はわたくしたち側に優位に傾きましたわ。ここから間髪入れず攻め続けましょう』

(……お役に立てて光栄だわ)


 ヴィクトワーレは何か釈然としないものを感じつつも、エスペランサからの事前に提案されていた「威圧返し」は都市同盟側の出鼻をくじいた。

 外交交渉と言うのは一種の戦いのようなものであり、舐められるとそれだけ不利になってしまうのだ。

 特にリクレールは、その容姿から昔から舐められやすいので、まずヴィクトワーレからガツンと一撃与えるのは効果的だった。


「停戦の条件ですが、御存じの通り、我が西帝国の次期皇帝レオニス殿下は、《《不幸なすれ違いから始まった》》この悲惨な戦いに心を痛め、都市同盟の皆様との講和を望んでおります。そのため、僕らとしても講和交渉が纏まるまでの間、これ以上人命が失われることがないよう、お互いに戦いを止めることを望んでいます」

『…………』


 リクレールの言葉に、その場にいた都市同盟の人々は「お前が言うな!」と心の中で盛大に突っ込みを入れていた。

 そもそも今回の戦いのすべての元凶は、目の前にいる銀髪の少年なのだ。


「ただし、ただ戦いを止めるというのも難しいのです。わが軍の中には、戦況が有利にもかかわらず、なぜ戦いを止めなければならないのかと反発する者も大勢います。彼らに対し、ある程度の説得力を持たせるためにも、僕たちからはこの条件での停戦を希望します」

「どれどれ…………」


 リクレールから停戦の条件が書かれた書状を受け取った執政官たちは、その内容を見てすぐに顔を真っ赤にした。


「な、何だこの内容は! 我らを無碍にするのも大概にしろ!」

「では受け入れられないんですか?」

「当たり前だろう! どこの世界に、停戦交渉でこれだけ非常識な賠償金を要求する者がいるというのだっ!」


 まず真っ先に怒り狂ったのは、執政官の一人アンジョルラスだった。

 というのも、書面に書かれていた金額はなんと250万リブラ(1リブラ=金貨1枚は大体1000ドルくらい)というかなり法外な金額で、これは西帝国の年間国庫収入の2倍以上に相当する。

 現在西帝国との講和交渉でも、かなりの賠償金を支払わなければならないことが確実であるというのに、この上さらに国家予算規模の賠償金を要求されるなど溜まったものではない。


「別に停戦交渉で賠償金を要求しちゃいけないというルールはないですよね? 僕たちはこの戦いのために、兵士に多額の給料を支払ったり、高騰する物資を買いそろえなきゃいけなかったんですよ。だから、そのお代くらいは建て替えてほしいと思いまして」

「だとしてもこの金額はあんまりだ……とても飲める要求ではない。たとえ講和交渉だとしても、この三分の一でもまだ強欲だと指さされる額ではないか!?」

「では、停戦交渉は決裂でよろしいですか? 別に僕たち自身は、このまま戦いを続けることもできるんですよ?」

「見え透いた嘘を。そなたらは次期皇帝より直々に停戦を命じられているではないか。少なくとも、その間は我らに攻撃することはできないはずだ……」

「ならば、命令されてできないと、物理的にできない、は違うということも知っていますよね? だからあなたたちは、僕が提案した停戦交渉を受諾したのでは? そして、停戦交渉が決裂したらどうなるか…………あなたたちの御自慢のスコーピオンは400ラザルも槍を飛ばすことができるし、投石器も300ラザル以上石を飛ばせるんです。少なくとも、この建物がある付近は木っ端微塵でしょうね。ああ、もしかしたら破壊すれば何とかなると思っていませんか? そしたら僕たちは、レオニス殿下に「停戦交渉中に相手が卑怯にも攻撃を仕掛けて来た」とご注進してもいいんですよ?」


 ずらずらと脅迫の言葉を並べていくリクレールに、アンジョルラスも全く反論することができず、その場にいる議員たちも怒り顔から一気に顔面蒼白になった。

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