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第472話 威圧と嘲笑

 停戦交渉が受諾されたことを受けて、翌日にはリクレール、ヴィクトワーレ、そしてシャルンホルストの3人が敵地である北区画に赴いた。

 若い3人が護衛も全くつけずに乗り込んできたことに、住民や議員たちは彼らが単なる命知らずなのか、それとも3人だけでもなんとかなるという自信か、伺うように様々な憶測を飛び交わせた。


「ようこそお出でくださいました。私はこの自由交易都市同盟の執政官を務めるリヤンドールと申します。以後お見知りおきを」


 リクレールたちが集会場に到着すると、執政官の一人であるリヤンドールが出迎えた。

 南区画の議事堂ほどではないが、大勢が住む北区画の中心となる立派な集会場の広間には、生き残った議員や裕福な資産家、そして彼らを守る守備隊がずらりと並んでいる。

 その数およそ500人ほど……一つの部屋にこれだけ大勢の人間が勢ぞろいしていると、その威圧感は凄まじいものがあるが…………この歳にして何度も戦場を経験してきた3人からしてみれば、この程度の「歓迎」で萎縮することはなかった。


 集会所の中心にはリクレールたちが座れるよう席が用意されており、その対面には、バランディーニを中心に執政官がずらりと並んでおり、その光景はまるで不良生徒を呼び出したときの校長と教師のようだった。


「自由交易都市同盟の皆さん、初めまして、でいいのかな? 僕は、アルトイリス侯爵のリクレールです。この度は、交渉の席を設けていただいたこと、嬉しく思います」

「こちらこそお初にお目にかかる。儂はバランディーニと申す、今は一部の不在の執政官の代理を務めておる。そして、ここに居るのも、都市同盟を運営する執政官と議員たちだ。よろしく頼む」


 挨拶こそ温和だったが、すでに両者の間では刺すか刺されるかのような緊迫した空気が漂いつつある。

 そんな中、まず先制攻撃したのはヴィクトワーレだった。


「まず私から、謝らなければならないことがあるようですね」

「……ほう、その謝らなければならないこととは何か」


 ヴィクトワーレの言葉に、出席した評議員の一人アンジョルラスが厭味ったらしい口調で尋ねた。

 都市同盟の人間からしてみれば、帝国の人間に謝ってほしいことなど、それこそ山のようにあり、全部謝罪させたら一月以上かかることだろうと内心で皮肉っていた。

 しかし…………


「どうやら交渉するにあたって、皆さんを怖がらせてしまったみたいです。ですがご安心ください、私たちは話し合いに来ましたので、乱暴する気はありません」

「っ! どういう意味だ、それは。我らはあなたがに恐れを抱いているということはないのだが」

「あらごめんなさい、これだけ大勢の人を並べているので、てっきり怖がらせてしまったのかと」


 ヴィクトワーレがあえて厭味ったらしくそう言うと、静まり返っていた会場の空気に亀裂が入り、議員や有力者たちが一斉にざわつき始めた。


「ふ、ふざけるなーっ! 誰がお前らなんか、お前らなんか怖くねぇ!」

「無礼な若造め、失礼だとは思わないのか!」

「そもそも、このようなことになったのは、おまえらの――――」

「静粛に!」


 いつもの議会の癖で思わずヤジを飛ばしてしまう議員たちを、バランディーニが黙らせる。

 これだけ大勢の人間を並べるのは、その威圧感で交渉を優位に運ぼうというよくある手法だったが、リクレールたちはそれを逆手にとって「お前たちはビビってんだろ?」と挑発したのだ。

 ヴィクトワーレにしては珍しい意地の悪さだったが、やはりこれもエスペランサの入れ知恵であることは疑いの余地もない。


「コホン、まあいい。これほどまでに大勢同席しているのは、それだけこの交渉が我らにとって重要なことであると考えていると理解していただきたい」

「それなら安心しました。では、改めて交渉に移らせていただきますね」


 そう言ってリクレールはにっこりと笑った。

 ここから、彼の怒涛の大搾取が始まろうとしていた。

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