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第471話 交渉の交渉

 アゴスティーニがランツフートを伴ってハキナトリアを出発した後、リクレールたちは間髪入れず、自由交易都市同盟に講和が纏まるまで停戦することを交渉することにした。

 まずは、そもそも交渉のテーブルに着かせることから始めなければならないため、初日に白旗を掲げた使者をボートに乗せて、停戦交渉するよう促す書状を渡させた。

 書状はいったん使者から議員の手に渡されると、仮の議事堂になっている建物に集まった執政官たちのところに運ばれた。


「バランディーニ様……帝国軍はなんと?」

「ふん、奴らめ、明日までに交渉に応じねば攻撃を再開すると言っている」

「これはまた随分と高圧的ですな。彼らは自分たちの立場が分かっているのか?」

「アゴスティーニからは、対岸にいる帝国軍らには次期皇帝直々の停戦命令が伝わっていると聞いている。要するに、彼らの言うことはブラフに違いありますまい」

「ワシもそう思うが……何か引っかかる。ともあれ、講和が纏まるまでそう長い時間はかかるまい。それまで時間を稼ぐのだ、奴らとの交渉は無視せよ」


 バランディーニをはじめとする執政官たちは、時間稼ぎのためにアルトイリス軍の停戦交渉を無視することにした。

 しかし、そこに生き残った守備兵からとんでもない報告が入った。


「た、大変です! 対岸にいる帝国軍が……兵器を組み立てています! 形状からして、大型の投石器ではないかと! それに、おそらく城壁の上に設置されていたスコーピオンも、解体してこちらに向けようとしております!」

「な、何ィ!?」


 兵士の報告が信じられなかった執政官たちは、建物のバルコニーに出て占領された南区画を見てみると、兵士の言う通り彼らは対岸で新型投石器やスコーピオンの組み立てを始めており、明らかにこちら側を攻撃しようと目論んでいるように見えた。


「ば、バカな!? 奴らは停戦を申し込みながら、攻撃する気なのか!?」

「お……脅しでしょう、脅しだけですよ、たぶん!」

「し、しかし奴らが本気だったらどうする!?」


 アルトイリス軍の意図が読めない執政官たちは、ブラフなのか本気なのか判断できず、ただただ右往左往するだけだった。

 ここで停戦交渉に入ったら、どのようなことを言われるかわかったものではないが、かといって今あの兵器に攻撃されれば、安全地帯のはずの北区画が脅威にさらされ、街が大きく荒廃してしまうだろう。


(そもそも連中が停戦命令を無視したら……? 奴らの良心に、どこまで期待できるのか!?)


 彼らは根っからの商人ゆえ、相手があくまで理知的で理性的に対応をする前提に考えてしまうが、もし帝国軍の総大将が皇帝の命令を無視してでも攻撃を再開した場合、たとえクライペダに逃げることができたとしても、都市同盟は壊滅的被害を被ってしまうことだろう。

 自分たちが「敵がいい人である」ことを前提に計画を進めていたことの危うさに気が付いたバランディーニは、直ちに評議員たちと再度話し合い、一転して停戦交渉を受けることにした。


「帝国人は野蛮だ。野蛮がゆえに、却って我々を容易に殴り殺せるだろう」


 そう言ってバランディーニが首を振りながらため息をつくと、周りの者たちは何も言えなかった。

 結局彼らは、渋々停戦交渉を受諾することを決定し、翌日には北区画で交渉を実施すると書面で返答するのだった。

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