第468話 何を信じていいかわからないよ
今回の自由交易都市同盟討伐戦で最も重要だったのは、ハキナトリアをほかの都市から孤立させ、大都市ゆえに食料や物資を大量に消費することを利用して干上がらせることだった。
だが、肝心のクライペダを陥落させない状態で停戦したとなれば、その目論見は完全に崩れる。
今から北区画を攻撃したとしても、主要な有力者はそのまま北海方面に逃げ、そこから復活を果たしてしまうだろう。
リクレールは、自分たちに何の相談もないまま攻撃を中止したビュランやザイドリッツたちに、大いに不信感を抱いた。
(まさか彼らも、僕らが先にハキナトリアの一部を占領したから、これ以上功績を立てさせないために……? トワ姉との婚約競争で不利にならないように? そんなことはないと思いたいけど……)
『主様、おそらく十中八九その後懸念は当たっていると考えますわ。どのような立派な人物であっても、自分の地位を脅かす者がいたら、可能な限り排除するか、さもなくば足を引っ張ろうとするのは自然なことなのでございます』
(けど、だからって、そんなことで大事な作戦を放棄したら……僕は何を信じていいかわからないよ!)
心の中でエスペランサと語り合うリクレール。
アゴスティーニはリクレールが何も言い返せず黙ってしまったと思い込んだのか、もはや勝ったも同然とより態度を大きくした。
「ま、そうは言いましてもアルトイリス候やユルトラガルド候にも事情はございましょう。我らは明日まで滞在しますゆえ、それまでに殿下への返答をお決めいただきたい。ですが……これ以上攻撃を続けるというのであれば、殿下からの心証がどうなるか、よくよくお考えくだされ」
「ちっ、いちいちうるさい奴だ。誰か、この使者を議事堂の一番豪華な部屋にご案内してやれ」
ランツフートもアゴスティーニの態度にムカついてきたらしく、使者団ごと追い払うように宿泊場所に行かせた。
「親父……なんかとんでもないことになったな。レオニスは……いや、殿下は一体どうしちまったんだ?」
「わからん、しかし……ビュランやザイドリッツらが攻撃を止めたのが本当なら、俺たちがこれ以上攻撃しても無意味どころか、あいつの言う通りレオニスから不審がられるだけだ。リクレール、お前はどう思う?」
「とりあえず……一度みんなの意見も聞きましょう。けど、僕は少し考えたいことがあるので、お昼過ぎになったらみんなを集めてもらっていいでしょうか」
「ああ、わかった。けど、あまり思いつめるなよ?」
こうして、この場に集まった諸将たちも一時解散となり、各々昼食を摂ってから改めて意見を寄せ合って話し合うことにした。
落ち込んでいるリクレールを見て、シャルンホルストだけでなく、ゼークトやモンセーら同級生、それにヴィクトワーレも心配してくれたが、リクレールは「少しだけ独りで落ち着く時間が欲しい」と言って、お昼を一緒に食べる約束だけ取りつけて、一人で議事堂のバルコニーに出て行った。




