第463話 ハキナトリア攻略戦 4
シャルンホルストが議事堂を襲撃しているのと並行して、アリシアとデルセルト率いる500人のアルトイリス兵は、市街地とは反対に城壁の方に向うと、城壁の上にいる守備兵たちに背後から襲い掛かった。
「こうしていると、なんだかウェアテル城を攻撃した時のことを思い出すわ」
「言われて見りゃそうだな、あの時は俺もお前も少ない兵で敵の寝首を掻いたものだが、今は真昼間で奴らはこの騒ぎで寝られんだろうよ。油断すんなよ」
「もちろん! それじゃあ、まずは塔の上の兵器を壊さないとね!」
アリシアとデルセルトはそれぞれ二手に分かれると、突然の背後からの襲撃に混乱するばかりの守備隊を蹴散らし、城壁の上を突き進んだ。
ハキナトリアの防衛の頼みの綱であるスコーピオンは、当然城内から向かってくる相手に向けることを前提としていないので、アリシアたちに狙いを定めることができず、仮に出来たとしても味方を巻き込む可能性が高いため、容易に発射することはできない。
「だ、誰かあいつらを止めろ!」
「無理だ……強すぎる!」
「敵は濠を越えてこないんじゃなかったのかよ!? 話が違うぞ!」
また、守備隊のうち半分以上が急拵えの傭兵だったことも、被害拡大に拍車をかけた。
元々ブレヴァン侯爵トライゾンが大金を叩いて雇っていた西帝国の著名な傭兵たちは、ラヴェルの戦いで散々に打ち破られた後に、なんとか自由交易都市同盟に再雇用してもらえていた。
しかし、彼らの脳裏にはラヴェルの戦いで、包囲されて皆殺しにされかけたトラウマが色濃く残っており、アルトイリス軍が白兵戦を仕掛けてくると言うだけで一気に怖気づいてしまった。
「くそっ、こうなってしまったらもはや立て直すのは無理だ! 俺たちも北区画に逃げるぞ!」
「し、しかし隊長っ! それでは戦わずに味方を見捨てることに……!」
「俺たちは騎士じゃねえんだ、忠義とか言ってる場合じゃない! 生き残らないと金はもらえねぇぞ!」
南区画の守備を任されていた「ダラルナ傭兵団」隊長のマグヌスは、議会から多額の金で雇われているにもかかわらず、一方的に撃破されていく味方と北区画の方に逃げようとする市民たちを見て、勝手に撤退の判断を下した。
ハキナトリアの守備隊にも何人か守備隊長の位を持つ武将はいたが、彼らは状況の把握と兵士たちの混乱を抑えるのに手いっぱいで、傭兵たちが逃げ出すことを止める余裕さえなかった。
しっかりと命令を聞かせることを重点的に厳しく訓練されたアルトイリス兵に比べて、特に目的もなく武器を振る訓練しかしていないハキナトリアの守備隊では、このように危機に陥った際の動きに明確な差が出てしまうのである。
リクレールがあの日、アルトイリス軍の訓練教官としてアンナを選んだのが正解だったことが、今更ながらよくわかる光景と言えた。
そうこうしているうちに、まずアリシアたちが城門がある場所まで駆け抜け、スコーピオンを無力化すると、兵士たちに城門を開けるように指示した。
「よぉし、城門は制圧したわ! レティ、合図を!」
「オッケー!」
アルトイリス兵が城門の開閉装置を操作すると、人の背丈の何倍もの大きさがある城門が軋む音を響かせながら開くのに合わせ、濠の上を通る跳ね橋が降りた。
そして、レティシアが術道具を起動して、空中に花火のような信号弾を打ち上げると、それを見たランツフートがユルトラガルド兵に一斉に全身の合図を出す。
「内側からの合図だ、どうやら城門の制圧に成功したようだ! 行くぞお前ら、もうあの槍を飛ばす兵器は怖くねぇっ!」
こうしてランツフートたちが前進を開始したころ、もう一つのメインの城門も、デルセルトたちが守備隊を蹴散らし、こちらもスコーピオンを全滅させて城門を開いた。
そして、こちらでも城門が開くのを待っていたリクレール率いるアルトイリス軍が、満を持して全身を開始した。
「さてと、この様子だと僕たちの分は残っていないかな? でも、だからと言って手加減する必要はないよね。全軍前進、残っている敵を全部片づける!」
城門は陥落し、スコーピオンもほぼ無力化されたハキナトリアの守備兵たちに、城塞の外から押し寄せる敵の本隊を迎撃する余力はもはや残っていなかった。
士気は完全に崩壊し、一部の勇敢な兵士たちを除き、たちまち武器を捨ててまだ無事な北区画へと逃れようとした。
しかし……彼らにはさらなる悲劇が待っていた。




