第462話 ハキナトリア攻略戦 3
「敵だーっ! 敵が来たぞーっ! 港の方から敵襲だ!」
「帝国軍は城壁の外にいるんじゃなかったのかよ!? なんで帝国軍が船で攻めてくるんだよ!!」
「逃げろ! 殺されるっ!」
ハキナトリアの街全体に重大な危険を知らせる鐘の音がけたたましく鳴り響き、市民らは完全にパニックに陥った。
逃げ惑う人の悲鳴と怒号があらゆる通りを埋め尽くし、南北区画を繋ぐ三本の橋には、たちまち避難民が殺到し始める。
何しろ片方の区画だけでも20万人以上の一般人が住んでいるのだから、その混乱具合は想像を絶するほどで、ハキナトリアの守備隊も敵を迎撃するどころではなく右往左往するばかり。
また、傭兵の中にはとっさに不利を悟って武器を捨て、市民に混じって逃げようとする者さえ出る始末だった。
そして、小高い土地の上に立つ議事堂内部でも…………
「執政官の皆様、そして議員の皆様! 早く逃げてください! 帝国軍はすでにこの建物の敷地のすぐ目と鼻の先まできております!」
「脱出用の船を出せ! 執政官が優先だ!」
ハキナトリア議事堂の警備責任者を務める立派な髭の中年男性は、このような時に備えて用意された、議事堂地下から運河に出られる地下水道に小型の船――ゴンドラを集め、重要な執政官や議員たちを優先的に逃がすよう指示を出していた。
このおかげで、執政官や一部の非常に裕福な議員はなんとか北区画に逃れることができたが、用意されたゴンドラの数が足りなかったため、議員の半数以上はその場に取り残されてしまうことになる。
「こっちだ、シャルンホルスト! こっちの通路を抜ければ議事堂は目の前だ!」
「流石はダーレンだ、潜入している間にこんな抜け道を見つけるとはな! 都市同盟の議員どもを確保すれば、俺たちはもはや勝ったも同然だ! いくぞ!」
ダーレンの先導で、200人のアルトイリス兵が裏路地を駆け抜け、あっという間に議事堂のある丘のふもとに到達する。
城壁の方にほぼすべての守備隊を向かわせていたせいで、議事堂にいる警備兵はわずか50名しかおらず、装備はいいものの戦争の訓練を積んでいなかったせいで、適切な守備体形を組むことすらできないままあっという間に正門を突破された。
「くっ、警備兵では止められんか! ゴメス、エドモン! 命に代えてでも逃げる時間を稼ぐんだ!」
「「はっ」」
ゴメスとエドモンと呼ばれた、身長が6スリエを越える筋骨隆々の大男二人が、それぞれ大剣と大斧を手に、議事堂中心部に向かう階段に立ちふさがった。
彼らは用心棒のために雇われた名のある豪傑の傭兵だったが…………そのような相手で、士官学校の生徒たちは今更ビビることはなかった。
「ふふん、その程度かい? ボクから見れば、君は彫刻が動いているのと同じさ!」
「なんだとこの――――ギャアっ!?」
まず、青狼学級級長のレムリアが、階段の上から剣を振りかぶろうとするゴメスに向って詰め寄り、隙だらけの両足を槍で素早く連続で突き刺した。
両足を貫かれたゴメスは溜まらず悲鳴を上げ、体勢を崩して階段を転げ落ちたところを、後続の兵士や生徒たちに寄ってたかって武器を突き立てられて絶命した。
「あっ、ゴメス!」
「よお、お前さんも人の心配している場合じゃないぜ」
「なにっ!? ぐ、ゲボッ!?」
エドモンの背後には、いつの間にかダーレンが回り込んでおり、彼が手に持っていたダガーが、後ろから首筋を斬りつけた。
彼もまた、喉から大量の血を噴出して階段下まで転げ落ち、とどめを刺されることになる。
「うっ、なんということだ!? ゴメスとエドモンが、こんなガキどもに!?」
「『お勉強』が足りなかったようだなぁオッサン! 道を開けてもらうぜ!」
「このっ、大人を舐めるなぁっ!!」
立派な髭の警備隊長も、シャルンホルスト相手に剣で斬りかかるが、シャルンホルストが振るう雷の魔法剣を正面から喰らい、痺れて動けなくなったところをぶった切られる。
「よし、邪魔な連中は排除した! 議員どもを捕らえろ!」
『応っ!』
防衛ラインをあっさり突破されたことで、逃げ遅れた議員たちや役人たちはもはや抵抗することもできずに、シャルンホルストたちの捕虜となった。
街の中枢が陥落したことで、ハキナトリアの指揮系統は完全に麻痺してしまい、都市同盟の守備隊は戦意を喪失して次々と降伏、あるいは逃亡してしまい、もはやハキナトリアは陥落寸前であった。




