第460話 ハキナトリア攻略戦 1
西帝国を東から西へ横断するように流れるミッドルタ大河が西の海に流れ込む地に形成された、巨大な三角州の上に広がる大都市ハキナトリア。
その都市の形状は人間世界の他のどの大都市と比べても、かなり特殊である。
街の区画は中央を貫くメインの河を中心に南側と北側に別れ、大型の帆船が通行できるよう、左右に開脚する構造の巨大な橋三本でつながっている。
そして、大きく南北に分かれた区画それぞれに独立した港湾施設があるほか、街の中も荷物を運ぶための運河が張り巡らされており、そこから商品を出し入れするための無数の倉庫が立ち並んでいる。
更にハキナトリアを囲む城塞は、アマンディやクライペダのそれとは比べ物にならないほどに堅固であり、城塞を囲む天然の濠はアマンディのように簡単に埋め立てられるような規模ではなく、城壁も潮風による浸食があるとはいえ、約30スリエもの高さを誇っており、いくつもある巨大な防衛塔の上にはスコーピオンがしっかりと配置されている。
帝国の別の都市(主にユルトラガルド侯爵領)から伸びる街道は、ハキナトリアの南北の区画にミッドルタ大河を挟んで一本ずつつながっており、平時は大河を行きかう船だけでなく、陸上でもかなりの交通量を誇っていた。
だが、西帝国が自由交易都市同盟に宣戦を布告したのと同時に、ユルトラガルド侯爵軍を中心とした約5000人の兵が一斉に押し寄せ、都市に繋がる街道や、その周囲の農村に繋がるいくつもの道を一斉に封鎖してしまった。
その上、ユルトラガルド軍を指揮するランツフートは、更にハキナトリアを締め上げるべく、スコーピオンの射程ギリギリに簡易的な防壁を築くと、そこからさらに射程内に可動防護壁を前進させ、また防壁を作るということを繰り返し、何枚もの壁を重ねながら前進するという、地道だが籠城側からするとかなり厄介な作戦に出たのだ。
とはいえ、この方法では堅実に進むことはできるが、本格的な攻城戦ができるくらいに近づくには、3ヶ月以上かかってしまうだろうが……実はユルトラガルド軍には別の狙いがあった。
というのも、ランツフートたちは内戦が終結して不要になった、かつてシャルンホルストたちが基地にしていたオキメイ村にある大型投石機を分解し、密かに陣地に運び込んでおり、これを射程内に組み立てることができれば、敵の城壁を粉砕することができると目論んでいた。
ところが、その期待はある意味いい方向で裏切られることになる。
「どうしたリクレール、お前と護衛だけでここまで来たのか!?」
「リク! あなたたちだけで来るなんて、何か大変なことでもあったの!?」
「安心してくださいランツフートさん、それにトワ姉。アマンディは3日前に僕たちが陥落させました」
「「えっ!?」」
リクレールが、護衛のマティルダとベルサだけを伴いユルトラガルド軍の陣地にやってきたとき、ランツフートと、平等を期すために中央軍に配置されたヴィクトワーレは何事かと驚いたが……リクレールがもうアマンディを落としたと聞くと、二人はさらに驚いた様子だった。
「い、いくら何でも早すぎない!? どんな手を使ったのよリク……」
「それはこの戦いが終わった後に、じっくり話すよ。今はちょっと急がなきゃならないことがあるから」
「わかったわ、それでリクがここに来たのも、何か次の秘策があるのよね?」
「うん、その通りだよトワ姉。ランツフートさん、僕たちは運よく都市同盟の増援部隊を撃破した際、彼らが使っていた船を鹵獲しました。今シャルが、船を使った別働部隊で、ハキナトリアの南区画に向っています」
「シャルンがハキナトリアの背後を船で狙っているのか! そいつは大事だ、俺たちもうかうかしてられんぞ! よく知らせてくれた! すぐに将軍たちを集めろ、緊急の作戦会議だ!」
自分の息子が決死の作戦に向っていると聞いたランツフートは、自分たちも陽動のために動く必要があるとすぐに理解し、ただちに配下の武将たちを招集し、作戦を確実に成功させるために動き始めたのだった。




