第456話 攻撃中止命令
アルトイリス軍がアマンディを僅か3日程度で攻略したのに引き換え、クライペダを攻撃するビュランとザイドリッツたちは苦戦を強いられていた。
「ビュラン様、ザイドリッツ様、申し訳ございません。このような時に負傷してしまうとは、不覚です」
「いや、無理はするなキトレル。まさかあの城塞が、ここまで厄介な造りとは思っていなかった……北方で戦った時とは段違いだぜ」
幕舎の中で体中に包帯を巻いて横たわるキトレルと、彼女を看護するザイドリッツ。
キトレルはここ数日の戦いで、乗馬をスコーピオンによって射抜かれ、その場に落馬したことで重傷を負ってしまった。
幸い回復術によって致命傷を負うことはなかったが、術でも骨折の治癒には時間を要するため、キトレルはしばらく戦線を離脱する羽目になってしまった。
また、彼女だけでなく、レオニスたちとともに戦ってきた精鋭の遊牧民出身の騎馬隊も、城壁から降り注ぐスコーピオンからの攻撃でかなりの被害を被っており、未だに濠にすら到達できていないありさまだった。
これは、別に彼らがリクレールよりも弱いということではなく、戦い方の相性によるところが大きく、特に濠を埋めるための具体的な作戦もなければ、しっかりした攻城兵器の用意もないのが問題だった。
北方戦線でもいくつかの城塞を攻略したが、それらの要塞には濠が存在しなかったのと、城兵の士気が低く、レオニスとの戦いを避けたがる帝国兵がいたからというのも大きかったのだろう。
「ビュラン隊長、どうしましょうかねぇアレ」
「ああ、私も見通しが若干甘かった。さすがは80年前に西帝国を退けた城塞、そうそう簡単に明け渡したりはせんか。城兵にもそれなりの打撃は与えられたが、どうやら都市同盟の連中は城内に増援部隊を送り込んでいるらしい。仕方ないが、ここからは力攻めはいったん避け、圧力をかけつつ本格的な攻城兵器の用意をせねばならんだろう。そうだな、あとひと月は見ねばなるまい」
「せめてどうにかして、強引に濠を埋められる手段でもあれば話は別なんですがね」
ビュランとザイドリッツが、今後の城攻めについて意見を交わしていたところで、ビュランの軍師であるベンジャミンが幕舎に入ってきた。
「ビュラン様、お取込み中失礼いたします」
「ベンジャミンか、どうした?」
「先ほどレオニス様からの使者が来られました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「殿下から? 何の要件だろう、とにかく丁重にお迎えしろ」
果たして「レオニスからの使者」としてやってきたのはアゴスティーニだった。
「ビュラン様、それにザイドリッツ様、お忙しいところ失礼いたします」
「おお、アゴスティーニ殿か! 殿下からいかなるご用件をいただいておりますか」
「それについては書状をお持ちいたしましたので、どうかご一読ください」
「なになに…………、……、……っ!? こ、これは、殿下がこのようなことを!?」
「何が書いてあるんです隊長?」
「そのように青褪めるとはいったいどのようなことが」
「殿下は……自由交易都市同盟への攻撃を中止せよとのご命令だ」
『!?』
レオニスから攻撃中止命令が下されたという内容に、ザイドリッツやベンジャミンをはじめとした、周囲の将兵たちは一気に騒然となった。




