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452/510

第452話 秘密基地

 アマンディがアルトイリス軍の手によって陥落していたのと同じころ――――

 西帝国首都タイラスルスから少し離れたところに、ザームラント村という鄙びた漁村があり、その村のはずれには小さな洞窟があった。

 この洞窟はすぐ裏側が海に面する入り江になっており、そこには帝国の目を盗んで接岸した交易都市同盟の船が何隻も停泊していた。

 そう、ザームラントの漁村は西帝国内にある貧乏な漁村を装った交易都市同盟の秘密基地であり、この村に住む住民はなんと全員が都市同盟の工作員なのである。


「バイユー様、御無事で何よりでございます」

「いや、まったくだ。危うく西帝国の連中に殺されるところだったぞ! これだから野蛮な帝国人どもは!」


 洞窟内にある小屋では、お馴染みの紅いフードを被った女性バラドワイズが、タイラスルスから何とか逃げ出した商人バイユーと会話していた。

 バイユーはにこやかそうに見える表情をしているが、こう見えてもかなり立腹しており、傍から見れば態度と表情がまったく一致していない。


「まあいい、議会の連中はなんと言っている?」

「はい、評議会にバランディーニ様がお出ましになり、帝国に降伏はしますが、より良い条件を引き出してからということで意見がまとまりました。そのためには、直ぐにでも帝国の要人を糸目をつけず買収し、新皇帝に停戦の詔を発させなければなりません」

「なるほどな。ちなみに、本国の方はどれほど持ちそうだ?」

「議会ではハキナトリアに籠城する限り戦いに負けることはないと考えていますが、この状況が半年以上続くようですと、西帝国諸共経済的な大打撃を被ることは確実と見ています。ただ、わたくしとしましてはこの作戦を奏上したのが、あのアルトイリス侯爵であるがゆえに、楽観的な見方はできないと考えております。最悪、1か月以内にハキナトリアが陥落する危険性すら考えております」

「ハキナトリアが陥落、か……いくら何でも海が干上がるとかしない限りは、そのようなことはあり得ないだろう。だが、それはそれとして、戦いが長引けば長引くほど、我らの損害は雪だるま式に大きくなっていくことは確か。可及的速やかにこの事態を終わらせねばならんな」


 バラドワイズにしてみれば、事前に不可能だと考えられていたことを幾度となく覆してきたリクレールは、動きが予想できない危険人物であった。

 今回の戦いも、彼女から見れば西帝国の経済を壊死させるだけの愚策にしか思えないのだが、もし勝算があって仕掛けて来たとするのなら、一刻も早く対抗手段を採らなければ手遅れになりかねない。


「それで、取り入るべき先についてですが……」

「ああ、それについてはすでに目星はついている。アゴスティーニという男だ」

「そうですわね、それしか手はないと言えますが、勝算は十二分にあるかと存じます。あのアゴスティーニという男は、自らの栄達のために、かつて仕えた主君マルセランを敵に売り渡したほどですから…………問題は、あの男にどのように接触するかですが」

「それについては私に任せてもらおう。私とて無為に帝都で過ごしていたわけではない。再び帝国の中枢に取り入れるよう、人脈はリストアップしていた。もっとも、計画はあのアルトイリス侯爵を名乗るガキのせいで破綻してしまったが……奴ら軍人がいない今こそ、付け入る最大のチャンスと言える」


 そう言ってバイユーは、にこやかな表情のまま口元だけをゆがませた。

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