第447話 アマンディの攻城戦 4
「思った通り、交渉は失敗したようね」
リクレールが相手との交渉に失敗したのを見たウルスラは、想定内とはいえやや残念そうな顔をしてた。
「お前も変わったな。昔から生徒に対してそこそこ厳しいのに、いざという時は過保護になるお前が、あのような危険な行為に一切反対しなかった」
「……不安でたまらないのは、今も同じよ。けど、リクレールを初め、私の生徒たちはもう自力で飛べるのだから、これ以上干渉はしないことに決めたの。今回の攻城戦だって、今回が最後の授業のつもりだから」
「最後の授業? お前、まさか……」
「話はあとよ、今は1刻が惜しいわ。サンシール、手筈通り頼んだわよ」
「仰せのままに我が師よ。さあ、ここに揃いし幸薄き者どもよ、事前に侯爵様より通達されたように、君らが鎖から解き放たれるかは、死を克服して生を得られるかにかかっている」
サンシールは、ずらりと並んだ元ブレヴァン軍の捕虜1000人を前に、相変わらず大仰な口調で作戦の再確認を行った。
「君らの手にある麻袋に砂を詰め込み、あの場所にある濠に投げ込むのだ。一度でも成功すれば、約束通り囚われの身から解放し、路銀を手渡して故郷に戻してやる。もちろん、途中で逃げ出そうとする者は、アルトイリス侯の兵にその場で処断され、遺体は濠を埋めるための材料となる」
この場に揃った元ブレヴァン軍の兵士たちは、その大半が領内から集められた徴募兵であり、今すぐにでも家に帰りたい気持ちでいっぱいだった。
袋に土を詰めて濠に投げ込むだけとはいえ、非常に命がけの作戦となることに誰もが悲壮な表情を浮かべていたが、自由になれるだけでなく、帰り道の路銀も用意してくれるというのだから、やらないわけにはいかなかった。
ところが、サンシールはもういくつか兵士たちに提案する。
「さて、もし君らのなかで、この程度余裕だと思う者がいれば、二往復目に向かうこともできる。もし、二度目が成功したら…………ここに、リブラ金貨が20枚入った袋がある。これを褒美として与えようではないか。もちろん、三往復目以降もやれば、もっと貰える」
そう言ってサンシールは、手のひらにリブラ金貨を無造作に広げて見せる。
金貨などなかなか手にする機会がない庶民らにとって、20枚もの金貨は途轍もない大金であり、質素に暮らせば一家族が1年は何もせずに生きていけるくらいだ。
この分かりやすい「ご褒美」を見た兵士たちの眼の色が俄然変わった。
「さあ勇敢なる諸君、敗北の苦い記憶を、勝利の栄光で塗り替えるのだ! そして、更に勇敢な者は、さらなる富を手にするだろう! この一日で諸君の価値は決まるのだ!」
『うおおぉぉっっ!!』
こうして元敗残兵たちは、すっかりサンシールの口車に乗ってしまったのだった。




