第446話 アマンディの攻城戦 3
翌日――――アマンディの港町は緊張状態に包まれていた。
離れた場所にあるアルトイリス軍の陣地からは、朝早くからホイッスルの甲高い音がせわしなく鳴り響き、それは今まさに獲物に襲い掛からんとする猛禽が、けたたましく威嚇の声を上げるように聞こえた。
アマンディの港に駐留する守備兵はわずか500人ほどで、その半数は急遽雇い入れた傭兵だった。
数はアルトイリス軍の6分の1程度だが、それでもこの街生まれの自警団からなる守備隊は、80年前に帝国を追い返した兵器と濠に守られていることで、彼らを追い返せる自信があった。
「隊長、敵陣から誰かこちらに向かってきます」
「なんだあれは、子供か?」
アマンディ守備隊の隊長を務める中年男性モルジヴは、赤緑の女性騎士を伴い、黒い馬に跨った銀髪の少年の姿を見た。
彼は白旗を掲げており、交渉の使者であることを示していた。
「どうします隊長、撃ちますか?」
「まて、話だけでも聞いてみようじゃないか」
既にスコーピオンの射程圏内ではあったが、リクレールとその護衛に当たるマティルダとベルサはそれを悠々と越えてきた。
もっとも、3人の内心はあまり穏やかではなかったが。
「あははー、さすがに緊張しますねーリクレール様っ! 万が一あのぶっとい槍が突き刺さったら、即死ですからね!」
「まだ敵は撃ってきませんね……一応、最低限の礼儀はあるのでしょうか」
「とはいえ、いつ撃たれても不思議じゃない。すぐ撃たれてもいいように、気を付けて」
やがてリクレールは、敵兵の顔が見える距離まで近づくと、声が大きく響くようになる魔術道具を片手に、アマンディの街に語り掛けた。
「アマンディの守備隊に告ぐ。僕は、アルトイリス侯爵リクレールだ。この街の長、もしくは守備隊長はいるか!」
「おう、俺が守備隊長のモルジヴだ。帝国の侯爵がこの街に何の用だ」
「聞いての通り、君たち自由交易都市同盟は僭称者マルセランに肩入れし、帝国と結んだ中立条約を侵した。次期皇帝レオニス様は、これを許さず、すべての都市を帝国の手に戻すべしと仰せられた。けど、もし今のうちに城門を開いて降伏するのであれば、君たちの命ばかりか、財産も保証しよう。もちろん帝国の支配を受けてもらうけどね。それが嫌だというのであれば、この街は完膚なきまでに破壊する。ブレヴァン侯爵領のいくつかの街で起きた顛末、まさか知らないとは言わないよね」
「何かと思えば……なめるなよガキが! 我ら自由交易都市同盟の市民は死んでも帝国の権威になど屈さぬ! たとえ最後の一人になろうとも、我らは戦い続けるぞ!」
「そうなの? じゃあ、ちゃんと聞いてみようか」
「なに?」
「アマンディにお住いのみなさーん!! アルトイリス侯爵リクレールでーす!! 降伏して城壁を開けば、命とお金は保証するよーっ!! でも僕たちが先に城壁を突破したら、もう遅いからねーっ!!」
「「うるさっ」」
リクレールはエスペランサの魔力で、拡声器の術道具の出力を一時的に増大して、アマンディの街に向けて大声で叫ぶ。
傍にいるマティルダとベルサは思わず耳を塞ぎ、彼女たちが乗っている馬もびっくりして暴れそうになった。(なお、ネージュはご主人が騒音公害を出そうとも、黙々と足元の草を毟っていた)
この叫び声により、平和に浸かり切ったアマンディに住む市民や、金で雇われている傭兵たちに動揺が走る。
焦ったモルジヴは、これ以上好き放題させてたまるかと、リクレールたち目掛けてスコーピオンの発射許可を出した。
「ええい! あの喧しい口に太いの(ボルト)を咥えさせてさしあげろ!!」
「来たよ二人とも!」
「「はいっ!!」
スコーピオンが動いたのを見た瞬間、リクレールたちはあえて城壁の方に向って前進し、スコーピオンのボルトをくぐってかわすと、着弾を確認してから一気にUターンして陣地に戻っていった。
いくら装填が投石器より早いとはいえ、すぐに次弾を発射することはできないスコーピオンでは、馬で逃げる3人の背中を撃ち抜くことはできなかった。




