第444話 アマンディの攻城戦 1
自分の知らないところで、自分の命を執拗に狙う敵が一命をとりとめていることなど知る由もなく、リクレールは軍を率いて自由交易都市同盟の拠点の一つである、港町アマンディに対して攻撃を開始していた。
「シャルとこうして肩を並べて戦うのは久しぶりだね」
「ああ、だが俺たちにとっては初めての攻城戦、しかも相手は小規模とはいえ自由交易都市同盟の城塞だ、一筋縄ではいかんだろうな」
内乱ではずっと別々の軍で戦っていたリクレールとシャルンホルストは、久々に同じ場所で戦えることを嬉しく思ったが、同時に今回は初めての本格的な正攻法での攻城戦となるため、野戦との勝手の違いに二人ともやや不安そうであった。
それに、今から攻撃するアマンディの港町も、今まで陥落させてきたウェアテル城やセダン城とは異なり、小さいながらもしっかりとした防備が整った城塞であることも、困難さに拍車をかけている。
街を取り囲む城壁はそれほど高さはないが、それをさらに囲むように幅広の濠が行く手を塞いでおり、しかもこの濠は海からの水を引いた水堀であった。
その上さらに自由交易都市同盟の秘密兵器として、3つある角塔の上に「スコーピオン」という巨大なクロスボウのような兵器が備え付けられている。
80年前の独立戦争で西帝国軍の大軍を押し返すことができたのも、このスコーピオンの性能によるところが大きく、6スリエ(約183cm)もある長さの「ボルト」と呼ばれる矢の形をした槍を、およそ400ラザルも飛ばすことができる。
しかも、3本同時にで射出でき、発射速度も投石器に比べて圧倒的に早かった。そのため、ただ力攻めするだけでは攻撃側は大損害を被ることになるだろう。
しかし、ここで心強い味方となったのは、彼らの担任教師だったウルスラの存在であった。
「流石に短期間にこの城塞を攻略するのは、生徒たちには荷が重いわ。お手本を見せてあげるから、みんなは私とローレル先生の指示に従ってほしい。もちろん、意見があればどんどん言ってちょうだい」
「悔しが、士官学校の中で攻城戦の経験でこいつに勝る奴はいない。攻城戦は経験がものを言う世界だ、机上の空論では大火傷しかねん。お前たちはいまのうちに経験を積んでおけ」
青狼学級担任のローレルも、実戦経験が多いとはいえ、実はあまり攻城戦の経験がない。
そして、現在では対魔族軍のための野戦戦術に重点を置く士官学校では、攻城戦の理論はまだあまり発達していないのも相まって、どうしても城攻めの知識が不足しがちだ。
だが、幸運なことに、ウルスラはその特異な経歴により、ほかのどの教師よりも攻城戦の経験が豊富だった。
(まさかあのころの経験が今になって生きるなんて、世の中分からないものね)
ウルスラは自らの黒歴史を胸に封じると、攻城戦陣地構築の傍らで、アルトイリス軍に指示を出していった。




