第443話 生き残りたち
「姫様、ここまでくればもう大丈夫でしょう。都市同盟の警備隊は、このような場所まで追ってくるだけの余裕はないはずです」
「本当に……逃げ出せちゃったね。またギリギリで生き残ったわ……」
ハキナトリアから間道を抜けた先にある谷間まで逃げて来たフランシールとフォルゴーレ、そしてレガーミの三名は、ようやく安全県内まで逃げ切れたことにほっと一息ついた。
フォルゴーレの策略により、わざと地下牢に閉じ込められたフランシールは、ムジェロが議会にかかりっきりになっている間、邸宅にいる人々の目を盗んでレガーミと共に裏口から脱出し、予め市場に隠していたフォルゴーレの馬車に乗り、出入りが禁止される前にハキナトリアの門から正々堂々と脱出したのであった。
城門を警備していた兵士たちも、特にフォルゴーレのことを怪しいとも思わなかったようで、彼らは後で議会から問い詰められた時も、いつ逃がしたわからなかったほどだった。
「それにしても……今更だけど、フォルゴーレもレガーミも、どうして私のことを助けようと思ったの?」
「……私の予想では、自由交易都市同盟は、そう遠くないうちに西帝国に屈することになると思っています。そうでなくとも、ブレヴァン侯爵家とあまりにも深い関係を結びすぎた、私たちジオーネ商会は、没落は決定的でしょう。真に嗅覚の優れた商人は、商品が最も高い時に売るのではなく、高騰しきる前に手放すもの……私は家を見限って、自分が生き延びる道を新たに模索することにしたのですよ」
そのように語るフォルゴーレの表情には、やや陰りが見えた。
彼は父親とはそこまで仲は悪くないにもかかわらず、自分のわがままで大事な人質と共に家出をしたのだから、強い罪悪感を抱くのも当然だろう。
「それに、私はあなたがそのまま帝国に引き渡され、処刑されるのが耐えられないのです。僕は商人ですが、なんといいますか……これからは、姫様だけの騎士でいさせていただけないでしょうか」
「も、もう……なにそれ! 私のために、そこまでしてくれるなんて……!」
「ふふふ、商人なのにロマンチストなんだな若旦那は。その無鉄砲さ、あたしゃ嫌いじゃないよ」
そう言って茶々を入れてくるのは、結局ここまでついてきてくれた長身の女性傭兵レガーミだ。
「あの、そう言うレガーミは……」
「私か? そりゃ、あのままあの街に居たら、絶望的な防衛戦に駆り出されて死ぬだろう。どうせ契約を破るなら、切りのいいところまで付き合ってやりたいと思っただけよ」
そんなことを言うが、何だかんだでこの女傑も非常に面倒見がいいのだろう。
傭兵にも関わらず、家出した商家の跡継ぎと脱走した令嬢の面倒を見るというのは、なかなかの変人と言ってよい。
「で、ここまで逃げてきたのはいいんだけど、これからどうしようかしら」
「幸い、馬車には数ヶ月分の食料とかなりの額の資金が積まれています。しばらくは生活に困らないと思いますが、生き残るだけでなく次の目標が欲しいところですね」
「いったん東帝国まで亡命するか、それとも魔族が抑えている土地でも解放して、そこを拠点に新しい勢力を立ち上げるか……いずれにせよ、傭兵団や行商団のような集団を結成するのが当面の目標かね。その方が、いざとなった時に出来る選択肢は多い」
「そのことも含め、野営しながら話し合いましょうか」
そろそろ日が傾いてきたため、3人は途中にあった泉の付近で馬車を留め、そこでこの日の野営の準備に入った。
人数分のテントを立て、焚き火を起こし、泉で馬を洗ってやったりしていると…………
「すまない……そこの旅の方たち、俺も一緒に休ませてもらっても、かまわないだろうか?」
「うわっ、ど……どうしたのあなた、そんなボロボロの格好で!?」
どこからか、ボロボロの格好で槍を杖代わりにして歩く青髪の少年が、彼らのところにふらふらとした足取りで近づいてきた。
身体のいたるところに血と泥で汚れた包帯が巻かれ、頬がやせこけ、肌は土気色……生きているのが奇跡と言えるほどの衰弱ぶりであった。
「フォルゴーレ、レガーミ、ちょっと来て! なんだか具合が悪そうな人が!」
「……! これは、旅の途中で山賊にでもやられたんでしょうか? すぐに栄養のある食事を作りますので、レガーミさんは傷薬と、念のため病気の薬を」
「わかった。こんな若い子がどうして一人でこんなところに……熱もあるじゃないか、すぐに休むんだ、いいね?」
こうして、青髪の少年…………白竜学級軍最後の生き残りだった男子生徒アルトーは、奇跡的にフランシールたちに助けられ、命を取り留めたのだった。




