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第442話 大脱走

「ところでムジェロよ、ブレヴァン侯爵家の令嬢の身柄を預かっているのはそなたの家であったな」

「は……はいっ! 何かの時のために使えるかと思い、我が邸宅に留めておりますが、我らが帝国から攻撃されると耳に入れば逃げ出す恐れがあるため、現在は我が家で厳重に監禁しております」

「そうか! 流石だムジェロ、情報を得てからすぐにそのような動きができるとは、先見の明があるぞ! あの娘の身柄は、西帝国に対する交渉の切り札となりえる、そのまま厳重に留めておけ」

(フォルゴーレの話を聞いて正解だった……さすがは我が息子だ)


 本当は息子が思いついたことだが、そのようなことはおくびにも出さず、バランディーニに褒められてホッとするムジェロ。

 これで彼の今後の発言権も安泰だろうと思われた。

 しかし、そのようなタイミングで議事堂にジオーネ商会からの使いが慌てた様子でムジェロへの面会を求めて来た。


「旦那様……ムジェロ様はいますでしょうか! 火急のご連絡です!

「今は重要な会議の最中なのだ、火急とはいったい何が起きた?」

「そ、それが! フランシール様の姿が消えました!」

「フランシールが消えた!? 冗談も休み休み言え!」

「本当でございます! そ、それに……」

「まだ何かあるのか!?」

「若旦那様……フォルゴーレ様の姿も見えません! また、牢の見張りをしていたレガーミ様も、いつの間にかいなくなっておりました!」

「そ……そんな、一体どうして……」


 せっかくバランディーニに胸を張って報告した直後に、そのような絶望的な報告を受けたムジェロは、その場で腰を抜かしてへなへなと座り込んでしまった。


「おい起きろよムジェロ、本当かどうか私がともに見に行ってやる!」

「俺も行くぞ、こいつが言っていることが本当なら一大事だ」


 アンジョルラスとリヤンドールが、茫然自失状態のムジェロを無理やり起こすと、会議をいったん中断させて彼の邸宅に向かった。

 ムジェロの邸宅内はすでに騒然としていたが、執政官たちに抱えられたムジェロが来ると直ちに道を開け、邸宅の地下牢へと案内した。

 そこには誰もおらず、フランシールを閉じ込めていたはずの檻の扉には鍵が刺さったままだった。

 それに、彼の息子フォルゴーレの姿もどこにもなく、店の者たちに聞いたところ


「市場に行ってくる」と言ったきり帰ってこないのだという。

「なぜ誰も気が付かなかったのか!?」

「それは……牢の見張りはレガーミ様の役目ゆえ……」

「我らも仕事で忙しく、いつ姿を消されたのか全く見当がつきません」

「も、もしかしたら、レガーミ様がフランシール様を逃がすために、若旦那様もろとも攫ったのでは!?」


 商人の邸宅は国や領主がいる城ではないので、牢屋を見張るための兵士はないし、邸宅内を警備する役も基本的に金庫などを優先的に守っている。

 店員たちはフォルゴーレまで一緒に拉致されたのではないかと必死に言うが、これは明らかにフォルゴーレ自身がフランシールを逃がしたと考えるほかない。


「おのれ……フォルゴーレ、あのバカ息子…………いったい何のために、このような真似を…………うっ!?」

「だ、旦那様!?」

「おいムジェロ!? どうした、しっかりしろ!」


 自身の息子にはめられたことを知ったムジェロは、怒りで目玉が飛び出そうなほど激昂したが、急に胸を押さえて苦しみだし、そのまま倒れてしまった。

 慌ててアンジョルラスや店員らが駆け寄るも、ムジェロは意識を失ったまま反応しない。


「すまんリヤンドール、このことをすぐに皆に知らせてくれ!」

「それは構わんが、アンジョルラス、お前は……」

「商売敵とはいえ見知った仲だ、しばらく介抱しながら、うちの使用人らにフランシールやフォルゴーレたちの行方を探らせる」

「わかった」


 この後リヤンドールはすぐに執政官らにこのことを知らせ、急いでハキナトリア中を捜索させたのだが、彼らの行方はついぞわからないままだった。

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