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第441話 買収計画

 やはり音頭を取る役がいると議論はスムーズに進むようで、バランディーニは主戦派の意見と降伏派の意見をうまい具合に取り入れて折衷し、最終的に「戦いで相手に出血を強いつつ、なるべくまともな条件で講和できるようにする」という目標で話がまとまった。

 クライペダとアマンディ出身の議員たちは、自分たちの街が同盟全体の時間稼ぎに使われることにかなり不満を持っていたが、全体から見ればこれが最善の手であることは疑いないので、議会の決定として押し切られることとなる。

 一応、彼らへの配慮としてあらかじめ船による住民の避難(ただし避難先はエーレスンドとロンブローゾ)を行うことと、西帝国と講和を結べた暁には、復興に最大限の予算をつぎ込むことも定められた。


 こうして方針が決まったことで、議会はいったん解散となり、戦いに向けて各々が準備することとなったが…………バランディーニは密かに執政官6名だけを再度招集し、より具体的な策について話し合いの場を設けた。


「誰か、帝都に派遣していた「工作員」どもと連絡が取れる者はおるか」

「それについてはわたくしが」


 老齢の女性執政官ローレルリンがすっと手を挙げる。


「現地には私の息子バイユーが赴いております。おそらく今は、もしものために逃げ込む「避難所」にいると思われますが、何とか連絡を講じることは可能でしょう」

「よろしい。であれば、現地の工作員を追加で増強し、なるべく早く「西帝国の弱点」を探るのだ。新体制となったとはいえ、西帝国の貴族や官僚の中には、金で買収できる者はそれなりにいるであろう。むしろ、皇帝と臣下の距離がまださほど遠くない今だからこそ、めぼしい者たちに働きかけ、次期皇帝に此度の侵攻を中止させるよう仕向けるのだ」

「やれやれ、また出費ですか…………あのマルセランに多額の投資をしたばかりというのに、負債を回収せぬうちに金をばら撒く羽目になるとは」

「その投資は失敗したのじゃ。お前の失敗で帰って来ぬ金のことを、未だにグチグチ言っても始まらん。むしろ、自分たちの命を金で買っていると思えば安いもんじゃろう。そなたの懐刀……バラドワイズは戻ってきておるか?」

「はっ、あれは済んでのところで侯爵に見切りをつけ、我が元に戻ってきており、次の司令があればいつでも動かせます」

「なら決まりじゃな。あ奴なら、多少は帝国内部の事情も明るいじゃろう」


 また余計な出費がかかることに辟易としていたのは、ハキナトリアの中でも随一の資産家と名高いリヤンドールだ。

 青髪に豊かな髭と鋭い眼光が特徴的な、商人というより「裏社会の住人」と言った方がよさそうな雰囲気のこの男は、この世界でまだそれほど一般的ではない「金貸し」を専門とする商人であり、ブレヴァン侯爵家で度々陰謀に関わってきた赤いフードの女性バラドワイズの「本当の雇い主」であった。

 一説にはこの男の資産は、西帝国の帝室財産を上回るとすら言われており、その気になれば帝都タイラスルスのすべての建物を金で買えると豪語するほどだ。

 今回の内戦でさらなる資産の増強を狙い、マルセラン派に莫大な資金を投じたのだが、結局彼らが負けたことで回収不能となってしまった。

 それゆえ、これ以上金を失いたくないのが本音であったが、ハキナトリア自体に危機が迫っている以上、背に腹は代えられなかった。


「帝国内部の買収工作はお前に一任する」

「承知しました。この危機が去れば、金を稼ぐ機会などいくらでも訪れましょう。むしろ、新体制で成り上がった貴族を食い物にする絶好のチャンスでもありますな」


 こうしてリヤンドールは、どのようにして新しい西帝国を金で操ってやろうか、思案しはじめたのだった。

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