↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
440/461

第440話 誇りで飯が食えるか

「改めて尋ねるが、お前たちは都市同盟の理念の上で死ぬことを望んでいるのか? それとも金を支払い、頭を地に打ち付けてでも生き延びたいのか?」

「そ、それは……」

「バランディーニ殿! そう言う貴方様は、どのようにお考えで…………」


 フォルゴーレの父親であるムジェロは、バランディーニの前で狼狽えるだけだったが、代わりにムジェロとは若干対立関係にある豪商のアンジョルラスはなんとか彼から意見を引き出そうと画策する。

 というのも、ムジェロは議会の中で強硬に降伏を主張しており、独立が保たれる限りはあらゆる手段で西帝国との講和を優先すべきと言っているが、アンジョルラスは逆に主戦論派であり、ハキナトリアの強固な防衛能力で耐えきれば、先に音を上げるのは西帝国の方だと考えている。

 そして、自由交易都市同盟を誰よりも愛していると言っても過言ではないこの老人は、自分と同じように共和制を守れと力強く言ってくれるものと思っていたのだが…………


「ハァ……執政官でもない儂が、この場で意見を述べるのはご法度じゃろうが。儂はな、ただお前たちがグズグズしてるから、さっさと決めろと言うためだけに来たのだからな」

「しかし、そこをなんとか! どうかお力をお貸しください!」

「そこまで言うのなら仕方あるまい。…………今儂らができることは、降伏しかあるまい」

「「「なっ!?」」」


 バランディーニが主張したのは、まさかの降伏だった。

 これには、主戦派の議員たちは「話が違う」とでも言うかのように、不満たらたらだった。


「し、しかし……! 戦わず降伏するなどすれば、我らの誇りはいったいどうなると…………!」

「たわけ! 誇りで飯が食えるか! 今はあの時とは事情が違う……今ここで戦えば確実に負ける。ならばこそ降伏して、賠償金を支払いつつ講和するしかないのだ」

「それでは、最悪我らの独立を失うことになるのでは……?」

「そのような事態を招いたのは…………お主らが西帝国の事情に深入りしすぎたせいではないか! 聞けば新皇帝は、我らへの宣戦布告に、僭称者側の取引記録を証拠として見せびらかしたそうな。そのうえ、我らが兵の斡旋や東帝国から士官学校生を運んだことをはっきり知られておる。向こうにしてみれば、立派な内政干渉に違いあるまい」

『……………』


 バランディーニの言うことは、ぐうの音も出ない正論だった。

 しかも、西帝国内乱に首を突っ込むということは、議会で承認を得た事項ではなく、あくまで執政官となっている豪商たちが勝手にやり始めたことだった。

 当然議員の中にはこの行動を疑問視する者は大勢たが、大半は金やコネの力で黙らされ、政治が彼らの動きを止めることはできなかった。

 今回の危機は、まさにそのような西帝国に対して深入りしすぎていたツケが回ってきたということに他ならない。


「とはいえ、帝国の連中の言われるがままに金を差し出し、跪いて靴を舐めまわすというのも、それはそれで安直というものだ。交渉もせずに客の言われるがままにモノを売るのは、商人として恥ずべき事じゃからな。アンジョルラス、帝国軍はクライペダとアマンディに向っていると言ったな」

「は、はい! 確かです!」

「おそらく先にそれらを落として、この都市を孤立させようという腹積もりじゃろう。兵力は十分とは言えないだろうが、防衛設備だけは用意が整っておるゆえ、まずは2都市で可能な限り籠城し、時間を稼ぐのだ。敵の時間と血を失わせれば、交渉が優位に進められる。その間に我らは策を練り、なんとしてでも帝国に飲ませられるような講和の方法を模索するのだ」

「なるほど……クライペダとアマンディの者らには申し訳ないですが、時間さえ確保できれば、光明は見えてくるやもしれませんな」


 こうして、乱入して聴いた老人の緊急指導の下、会議はようやく少しずつ動き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。