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第439話 非常重大なる時

「これは西帝国の横暴だ! 我らは断固として抗議する! 平和を貴ぶ我ら自由交易都市同盟は、この暴虐な侵略行為に屈しない!」

「そうだそうだ! 80年前の連中のご先祖が味わった屈辱を、もう一度たっぷり味合わせてやれ!」

「し、しかし……あのころと違い、我らには肝心の軍隊がいないのだぞ!? 一体どうするというのだ!?」

「そうだ、例え奴らを撃退したとしても、帝国内で商売できなくては、我らは早晩干上がってしまうぞ!」


 ハキナトリアの中心部にある議事堂では、7名の執政官と100名以上 

 の議員が一堂に会し、徹底抗戦か降伏かで意見が真っ二つに割れていた。

 帝都タイラスルスにいる仲間からの連絡では、主要な「工作員」であるバイユーは辛くも脱出に成功したが、保管していた物資や金は全て巻き上げられ、更には貴重な砕氷船を含む商船が200隻以上拿捕されてしまったようだ。

 この上さらに、西帝国軍がクライペダとアマンディに向けて進軍しており、ここハキナトリアも西帝国を繋ぐ主要街道にユルトラガルド軍が進出しているという。


 80年前、西帝国の圧倒的な軍勢を跳ね除けた歴史がある自由交易都市同盟としては、そのころの10分の1以下の兵力しかない帝国軍に対して、強気に出たいという執政官や議員は多いが……かく言う自分たちも、独立戦争の時に戦力となった士気の高い民兵は今やおらず、戦力はもっぱら傭兵や冒険者といった、正規の訓練を受けていない兵士ばかりである。

 そのため、ここは西帝国に対して直ちに跪いて頭を垂れ、場合によっては金を支払ってでも講和して、何とか独立を保つべきだという声も多い。


 こうしている間にも、状況は刻一刻と悪化していくのだが、このところずっと平和を謳歌していた議会は、明確なリーダーがいないせいで意見を纏められるものがおらず、ただ時間だけが無為に過ぎていった。

 しかし、そんな時である。議員以外立ち入り禁止のはずの議会に、一人の市民が数人の護衛を伴って、遅いが、しかし確かな足取りで乱入してきた。


「お前たち、この非常時に何をごちゃごちゃ言い争っておる。多少の反発を覚悟でも、この場を纏める者はおらんのか、情けないものよ」

「うっ……あ、あなた様は!?」

「バ、バランディーニ様っっ!!」


 頭髪は全て白く、腰は曲がり、杖を突いて歩く様な老人――バランディーニの姿を見るや否や、議事堂にいる全員が一堂にざわめき、次々と敬意を示すポーズを取り始める。


 それはまるで、主人不在の玉座に王が帰還したかのようだった。

 執政官どころか、議員ですらない市民の一人が、ここまで存在感を持つ理由は、バランディーニがかつて執政官の一人として議員を務めていただけでなく、西帝国とまだ微妙な関係にあった頃に様々な政策を打ち出して、都市同盟が西帝国に経済的に大きく進出するきっかけを作った偉大な人物だからだ。

 現役の頃は、平等に議決権を持つ執政官の中にあっても、まるで都市同盟全体を束ねるリーダーであるかのように振る舞い、そのせいで政敵も非常に多かったが、市民や議会からの信頼度は計り知れなかった。

 バランディーニは10年ほど前に、老齢を理由に執政官の地位を退くと同時に、自らの行商団を解散して悠々自適な老後を送っていたのだが、どうやらこの危機に際しても一歩たりとも議論が進まない現状に業を煮やし、議会に乗り込んできたようであった。

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