第437話 ガサ入れ
豪商の息子であるフォルゴーレは、かなりの状況把握能力があるらしい。
都市同盟の評議員たちがいつものように熟議を交わしている間にも、仮とはいえ新皇帝体制になった西帝国の動きは、フォルゴーレが予想するほぼ最速に沿っていた。
まず、帝都に駐留してるビュランやザイドリッツの部隊は、皇帝の命令を受けてすぐに帝都タイラスルスに付属する港に押しかけ、まだ都市内に残っていた交易都市同盟系の商人たちを逮捕し始めた。
「こ、これは一体何の真似だ! 我らがいったい何をしたというんだ!」
「とぼけても無駄だ。お前たちが長年の中立協定を破り、帝国を害そうとしたことは、すでにレオニス様の知るところとなっている。おとなしく従えば、命までは取らないが、もし抵抗すればどうなるか……」
「くっ、暴君どもの手先め……! やはり皇帝の座はマルセラン様の方がふさわしかったのだ!」
「それはお前たちに都合がいい、の間違いじゃねぇのか? あくまで白を切るってんなら、覚悟しな!」
「おのれぇっ! お前たち、出合え出合え!」
交易都市同盟の商人たちは、捕まってたまるかと、雇っていた傭兵や用心棒たちに攻撃を命じたが、これははっきり言って悪手でしかなかった。
なぜなら、商人たちが攻撃したことで西帝国の言いがかりに近い宣戦布告にお墨付きを与えてしまったからだ。
(とはいえ、この後の流れからどちらにしても同じ運命だったとは思われるが)
商人たちに護衛や荷運びの人足として雇われた、力自慢や荒くれ者がビュランやザイドリッツたちに襲い掛かったが、彼らは剣や槍を手になんなく返り討ちにしていく。
そんな中……
「ば、バイユー様っ! 帝国の連中が乗り込んできました! すぐに脱出を!」
「ううむ……もっと早くに損切りしておくべきだったか。今海に出るのは危険なようだ、仕方がない、アレを使うぞ」
かつて白竜学級の教師デュカスがまだ生きていた頃、彼らをトライゾンの元に送り届けたふくよかな商人バイユーは、穏やかな顔をしながらかなり焦っていた。
何しろ、自分たちが肩入れした陣営が負けてしまったので、せめて可能な限り投資した分を回収しようとしたのだが、その欲深さがアダとなり、彼らは逃げ遅れてしまったのだ。
だが……彼らは金稼ぎのためならどのようなことも平気でする、海千山千の商人たち。実は、このようなことが起きた場合の対策も取ってあった。
「ビュラン様、ここがあの商人たちのキープハウスです」
「周囲を包囲しろ、一人も逃すな。ザイドリッツ、蹴破れ」
「よしきた! 開けろ! 開けないと死刑だ!!」
ビュランとザイドリッツが用心棒たちを全滅させている間に、キトレルが目敏く彼らが本拠としているキープハウスを発見する。
港町の中でもひときわ大きな3階建ての建物は、玄関の扉が内側から固く閉ざされていたが、ザイドリッツが武器や蹴りで無理やり破壊し、彼を先頭に騎士たちが一斉に店内へと突入した。
建物内は商人の拠点と倉庫を兼ねていたようで、無造作に積み上げられた物資が散乱しているフロアからは、まだ何人もの傭兵があっちこっちから襲い掛かってくる。
彼らの抵抗は無駄でしかなく、ビュランたちはあっさりと建物内を制圧した。
しかし、商人を何人か捕らえたはいいのだが…………
「ジメント君、君たちをこの地に連れて来た代表者はこの中にいるか?」
「いえ……全員見ない顔です」
ロディ渓谷で降伏した藍熊学級の級長にして、強面の士官学校生徒ジメントは、捕まえた商人たちの顔を一通り眺めたが、自分たちを北海経由でこの地に連れて来た者たちはここにはいないようだった。
一体どこへ消えたのか……彼らの使っていた船はすでにキトレルたちが制圧したので、海に逃げることは考えにくかったが、ザイドリッツがふと建物内を捜索していたところ、この建物の地下に隠し通路が発見され、それはなんと別の何の変哲もない家屋に繋がっていた。
「ちっ、逃げやがったか。探せ! まださほど遠くに行っていないはずだ!」
ビュランは急ぎ、部下たちに命じて逃げたバイユーたちの行方を追うのだった。




