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第434話 生き延びた姫君

 自由交易都市同盟とは、大陸最西端の海岸沿いに位置する5つの都市国家の連合体である。

 その中で最大の港町であるハキナトリアは、元々ハキナトリア伯爵家が治める領地だったが、当時の伯爵が課したあまりの重税に耐えかねた市民らが蜂起し、北海交易を生業とする豪商たちが音頭を取ったことで、貴族たちを追い出すことに成功してしまった。


 当然、帝国もこの反乱を見逃すわけにはいかず、討伐軍を派遣したが、防衛のために改造されたハキナトリアは陸上の攻撃では難攻不落で、海軍も豪商たちが所有する艦船に敗北を喫したことで、数年かけても攻め落とすことができず、そうしているうちに他の港町での蜂起と、魔族軍の侵攻が本格化して戦力を割けない事情が合わさり、最終的に自治を認めざるを得なくなってしまったのだった。

 とはいえ、ハキナトリアの商人たちも帝国の商業圏から永久に締め出されると商売あがったりなので、税の代わりに毎年一定額の金銭を献上することと、帝国内ではしっかり関税を支払うことで、自治権を持ちつつ帝国内でもある程度商売をすることが許された、というのが歴史的経緯である。


 現在の自由交易都市同盟は、この時代には珍しい「共和制」という政治体制を取っており、普段は7名からなる執政官と、彼らを選出する128名の議員がいる。

 この議員たちには政治的な提案や発言権を有するが、最終的に決定権を持っているのは7名の執政官だけであり、しかも近年ではこの7名は都市同盟の中でも特に裕福な家の代表者で占められるのが慣習となっていた。


 その7つの豪商のうちの一つ、「ジオーネ商会」を経営するジオーネ家の邸宅の中庭で、日に焼けた肌が特徴的な紫髪の女性が、心ここにあらずといった様子で椅子に座りながら空を眺めていた。

 そんな彼女の元に、茶色のコートを羽織ったやや気障っぽい顔の黒髪の男がやってきた。


「ここにいましたか、フランシール姫。暖かくなってきたとはいえ、このようなところに長くいると、お風邪を召されますよ」

「いいじゃない、私がどこに居ようと私の勝手。それに、姫はやめてと言っているでしょうフォルゴーレ」


 そう言ってプイっとそっぽを向く、ブレヴァン侯爵家次女フランシールに、フォルゴーレと呼ばれた黒髪の男は、やれやれというジェスチャーをする。


「それより、あなたに頼んでいたこと…………どうだったの?」

「残念ですが、あなたの御父上……トライゾン様も、弟君のアヴァリス様も、お亡くなりになっていました。調査によれば、トライゾン様は獄中で亡くなり、アヴァリス様は決闘の末敗れたとのことですが、十中八九、アルトイリス侯爵に処刑されたとみて間違いございません」

「そう…………覚悟していたこととはいえ、残念だわ」


 フランシールは、数か月前――まだ侯爵軍がリヴォリ城を囲んでいた頃、物資の調達のために、ここハキナトリアに赴いていた。

 ジオーネ商会の協力の元、物資や追加の傭兵の調達のめどが立ったところで、ブレヴァン侯爵家の首都セダン城が陥落したという衝撃的な知らせが届き、その数日後にはブレヴァン侯爵軍がリヴォリ城の包囲を解いて撤退し始めてしまった。


 本国が占領され、本隊もフランシールを置いて帰ってしまったことで、ハキナトリアに取り残される形になったフランシールだったが、手元にある戦力ではどちらの助けにも行けなかったので、しばらく様子見をしていたところ…………結局ブレヴァン侯爵軍は完全敗北し、トライゾンもアヴァリスも消息不明となったのである。

 そして、帝都タイラスルスが無血開城したという知らせが届いた後、トライゾンやアヴァリスがリヴォリ城で命を落としたことも確定。西帝国内有数の貴族の娘だったフランシールは、今や謀反人の一味として帝国に指名手配される身となってしまったのだった。

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