第433話 破られた「中立」
「自由交易都市同盟への攻撃だって!? い、一体何のために!?」
「そうですね、論より証拠と言いますので、こちらをご覧ください」
そう言ってリクレールは何枚かの書類をカバンから取り出し、机の上に広げて見せた。
それらは、マルセランの陣営に対して自由交易都市同盟が物資の供給や戦費の支援、そして傭兵の斡旋などの取引を行ったという証拠の書類だった。
「マルセランが自由交易都市同盟に対して物資や傭兵の提供を求めた際に交わされた契約書です。それに、こちらはブレヴァン侯爵家が物資の手配を依頼した書状になります。どうやらブレヴァン侯爵がもしもの時に備えて保有していたようですが、クレゼールさんがセダン城を明け渡したことで、処分されずに残っていました。あと、ベルリオーズさんも知っているとは思いますが、白竜学級や藍熊学級、それに黄獅子学級らが冬の北海を経由して内乱に介入したのも、都市同盟の商人たちの協力あってのことです。これは、西帝国が80年前に定めた中立条約協定に大いに違反する行為です」
「これは……なんということだ! マルセランの大伯父様が短期間であれだけの軍備を整えられたのは、確かに何かおかしいとは思っていたが……」
「まさかここまで積極的に介入していたとは……! さては内乱を機に、西帝国の商売を牛耳るつもりだったな!」
西帝国と、沿岸の大都市の連合体である自由交易都市同盟は、都市同盟側の自治を認める代わりに、お互いに干渉しないことを定めた中立条約を結んでいる。
そのため、自由交易都市同盟を運営する豪商たちは、海上での貿易で帝国から税金を取られることなく自由にふるまうことができる一方で、帝国内での商売……特に帝都や内陸部の大都市での商売はかなり制限されてる。
もしその制限が取り払われたら、ゼルモスとカドマーのような帝国系商人たちは資金力の差であっという間に駆逐されてしまうだろう。
「あと、これは僕らが独自に手に入れた情報なんですが、どうやら都市同盟らは、クレゼールさん以外のブレヴァン侯爵家の生き残りを匿っているようです」
「なんと、それは真か!」
「それについては俺も確認した。どうやらあいつらは、最後の最後まで俺たちのことをコケにしようとしているらしな」
本来であれば僭称者マルセランと共に処刑されるべき人物を匿っているという情報に、ベルリオーズも自らの耳を疑ったが、リクレールの言っていることが正しいことはランツフートも保証している。
ここまでくると、もはや中立条約違反を通り越して、帝国への宣戦布告をしているに等しい。
「奴らめ、皇帝の代替わりを機に帝国を食い物にする気だったのか、許せん! 俺もリクレールの案に賛成だ、この機会にあいつらの特権をぶち剥がしてやろうぜ!」
ザイドリッツもリクレールの意見に賛同したことで、この場ではもはや誰一人反対意見を表明しそうな者はなかった。
確かに自由交易都市同盟との中立条約は、西帝国にもそれなりの利益はあったが、自分たちに悪意を向けてくるようであれば看過はできない。
こうして、翌日には宮殿の謁見の間に諸侯が緊急で招集され、自由交易都市同盟の中立条約違反を理由に、条約を一方的に打ち切ることを発表した。
予想もしていなかった重大発表に、事前に知っていた者たち以外は腰を抜かすことになる。
「まさか……自由交易都市同盟が内乱を裏から操っていたとは、許せんぞオイ!」
「し、しかし、条約を打ち切るとなれば、北海経由の交易路が機能不全となり、下手したら今年の冬に臣民が飢えかねんぞ!」
「だからと言って、みすみす奴らのふるまいを見逃せと言うのか!?」
「静粛に。彼らはどうやら、我ら西帝国を心の底から侮っているようだ、このまま放置することは次期皇帝である私の威信にかかわる。ビュラン、そしてアルトイリス侯リクレール。そなたらに自由交易都市同盟を解体し、帝国領に組み込むことを命ずる!」
『ははっ!』
二名はすぐに動き出し、ビュランは北方軍団の再編成に取り掛かり、リクレールはこの時のために準備していたアルトイリス軍を指揮するため、ランツフートやシャルンホルスト、ヴィクトワーレらと共にリヴォリ城へと戻っていった。




