第432話 戦いはまだ終わらない
戦勝の宴と反逆者の処刑という一大イベントが終わった後は、しばらくは戦後処理ということで地味な日々が続く。
まずやらなくてはならないのが、今回の内乱でレオニス側として戦った者たちへの褒賞をどのように分配するかを決めねばならず、そのために誰がどの程度の功績を挙げたのかを一度全部突き合わせる必要があった。
また、帝国としては可及的速やかにレオニスが正式に皇帝に即位するための戴冠式を行いたいところだったが、そのためには東帝国の要人も招かねばならず、出来れば現在魔族と戦っているセレネたちも含めて招待したいところだ。
リクレールは今回の戦いで費やした戦費さえ回収できれば、新しく土地を貰う気はないのだが、降伏したブレヴァン侯爵家の長男クレゼールと、途中で通り道にしたフォントラル侯爵家の処遇を決めてもらう必要があるため、しばらくはアルトイリス領に戻れそうにないが、かといって帝都で何か仕事ができるというわけでもないので、数日ほどは帝国貴族たちと親交を結んだり、士官学校の生徒たちと西帝国の帝都タイラスルスの見物をしたりしてしばしの余暇を楽しんだ。
「さあ張った張った! 張っちゃダメなのは親の頭だけってな!」
「クソッ、なんだこいつ! ありえないだろ! なんでこのタイミングでそのカードを出せるんだ!」
「何かズルしてるだろトンチクショウ!」
(シャル……何て言うか、もう少し手心を……)
『やはりと言いましょうか、息をするようにカードをすり替えていますわ。シャルンホルスト様とカード賭博はすべきではありませんわ』
この日は北方で戦っていたレオニスの軍と、リクレールたちの交流もかねて、宮殿内の一室に集まりつつトランプを使ったカードゲームをしているのだが、相変わらずシャルンホルストが手品の技を悪用して掛け金を容赦なく搾り取っていた。
リクレールは内心で「こんなことするから、士官学校にいた頃東帝国中の賭場から出禁になるんだよ」と嘆息していたところで、ヴィクトワーレの部下ベルサが彼の元にやってきた。
「リクレール様、今お手すきでしょうか? リヴォリ城の本営より伝令が参りました」
「お、もしかしてようやく準備ができたかな!」
ベルサから書状を受け取ると、果たしてそこにはリクレールが想像していた通りの内容が書かれていた。
「シャル、ちょっと僕はレオニス殿下のところに行ってくる。君もこれが終わったら、リヴォリ城に戻る支度をしておいてほしんだ」
「ん……あぁ、そうか。意外と早かったな、そんじゃあともう一勝負したら俺も行く」
そう言ってリクレールはベルサを伴って王宮中心部に向かうと、レオニスに謁見する許可を申請した。
実はランツフートやベルリオーズ、それにビュランやザイドリッツらは特例として事前に謁見の許可を得ずとも会いに行けるようになっていて、リクレールも会いたければいつでもいいと言われてはいるのだが、リクレールは絶対に公私混同せず、あくまで一貴族としてルールを順守する姿勢を見せている。
「やあリクレール、来てくれたならわざわざ部下を通さなくてもいいのに」
「あはは、そうしたいのは山々ですが、これは僕の私的な用事ではなくて「アルトイリス侯爵」としての話になりますので」
「アルトイリス侯爵として、か。何か問題でも起きたのか?」
「それが、少々機密に関わることなので、重要な者以外は御人払い願えませんでしょうか」
「ふむ……一応、護衛以外は下げておくが、念のためビュランやザイドリッツ、それにヴィクトワーレを呼んでも構わないか?」
「もちろんです」
こうして、急遽リクレールから持ち込まれた話によって、重要人物が人払いされた部屋に集められることになった。
集まったのはリクレールやビュランだけでなく、カードゲームで対戦相手をオケラにしてきたシャルンホルストや、風呂から上がったばかりのベルリオーズなども同席することになる。
出席者が揃ったことを確認したリクレールは、改めて話を切り出した。
「端的に申し上げますと、自由交易都市同盟への攻撃許可をいただきにまいりました」
『なっ!?』
あまりにも予想外な要求に、レオニスたちは開いた口がふさがらなかった。




