第431話 火刑
そうして、いよいよすべての罪人が柱に縛り付けられ、足元に藁束が積まれると、最後にレオニスの出番がやってくる。
「…………西帝国皇帝の代理として、皇太子レオニスが命ずる。謀反人の……罪を、その穢れた身体と共に……焼き払え」
生まれて初めて処刑宣告文を読み上げるレオニス。
その口調は非常に緊張して、ところどころ上ずりそうになったが、何とか最後まで言い淀むことなく命令を下した。
レオニスも実際に戦場に立ち、自らの手で敵兵を斬ったことは幾度もあるが、処刑を命じるのはまた別の心理的負担があるようだ。
処刑人たちの手によって、松明から藁束に点火され、そこからさらに薪に引火し、火は瞬く間に炎となって罪人たちを足元から呑み込み始めた。
「ぐ、ぐあああぁぁぁぁぁああああっ!!!!!」
「いやああぁぁぁぁっ! あっ、あああぁぁぁっ!!??」
「あついっ……あついよぉっ!!!!」
沈黙を貫いていたマルセランも、身を焼く絶大な苦痛に我慢できずに絶叫し、その隣では娘のエーゼリンが喉から血を吐きそうなほど甲高い悲鳴を上げる。
また、大人の貴族たちはもとより、まだ若い第二皇子アシュドットや第三王子ヴァリク、それに一族が連座したことで幼い子供まで炎に焼かれ、悲痛な叫び声をあげており、リクレールもレオニスもできれば耳を塞ぎたいくらいだった。
もっとも、レオニスについた貴族たちの中には、敵対的な貴族が刑に処されるのを見て大に喜んでいる者もおり、また処刑の様子は帝都の市民にも見物を許可していたので、市民たちはいつも偉そうにしている上流階層が苦しみぬいて死んでいく姿を見て、喝采を上げていた。
様々な者たちの感情が渦巻く処刑場では、100本を超える木の柱を燃やす炎がいよいよ最高火力に達し、焼かれていく人々の悪夢のような絶叫と共に一つの巨大な炎の渦となって、天まで届かんほどの炎の柱と化した。
どうやら調子に乗って可燃物を積みすぎたようで、処刑執行の責任者だった文官は、慌てて兵士たちに防火作業を命じ始めた。
「れ、レオニス殿下! ここはやや危険でございますゆえ、お下がりください!」
「いいや……私はまだここに居る。彼らは私が処刑を命じたのだから、彼らの最期を見届ける義務がある!」
そう言って、レオニスは火の粉がパラパラ飛んでくるくらいの距離にいるにもかかわらず、その場で堂々と立ち止まっていた。
それを見たリクレールは、改めて次期皇帝が立派な人格の持ち主だと感心した。
(トワ姉のことはあるけど、殿下はやはり次期皇帝として申し分ない。この人がきちんと皇帝の責務を果たしていれば、西帝国を乗っ取る必要なんて、ないよね)
『…………』
エスペランサはまだ納得していないようだが、少なくとも今のところは、トライゾンのような皇帝権力を私物化するひつようをリクレールは感じなかった。
ただ、レオニスの方も、自分よりさらに幼いのに、目の前に広がる地獄絵図から目を逸らさず、自分と同じくらいの位置でとどまっているリクレールの胆力に感心したようだった。
「リクレール、君は下がっていていいよ、危ないからね」
「危ないのは殿下も同じです。殿下が下がらないなら、僕も下がりません」
「そうか……」
こうしてリクレールは、レオニスと共に、刑場に響く絶叫が途切れて炎が鎮まるまで、立ったまま見届けたのであった。




