第427話 奸臣
突然しゃしゃり出てきて、レオニスに自らの策を提案しているアゴスティーニを見て、この日宮殿に来たばかりのリクレールやランツフートは、一体この男は何者なのか訝しがった。
「何だお前は? 随分とレオニス殿下に近いようだが、この男も殿下たちとともに戦った仲間の一人なのか?」
「ああいやランツフート、この者はアゴスティーニといってな、城内の者たちを取りまとめて我らに無血開城を申し出た際の代表者だった者だ」
「なんと、そうだったのか! それなら、殿下の信任が厚いのも頷けるか」
ベルリオーズの言う通り、このアゴスティーニという男はマルセランとその臣下たちが帝都で跋扈する中、密かに不満分子たちを組織して機を伺い、トライゾンの敗北とレオニスの快進撃で彼らが追い詰められたタイミングでクーデターを引き起こしたのである。
もし彼の働きがなければ、リクレールが想定していたように帝都タイラスルスを力攻めせねばならず、敵味方双方、それに帝都の住民たちにも大きな被害が出ていたと考えると、レオニスの陣営にとっては大きな功労者と言えるだろう。
なお、マルセランとその配下の将や文官たちは、クーデターを起こした将軍や騎士たちによって、現在タイラスルスの地下牢に幽閉されており、かなり前から同様に幽閉されていた第二皇子アシュドットと第三皇子ヴァリクと共に帝国で内乱を起こした罪で後日処刑される予定となっている。
それはさておき、このアゴスティーニという男は、そこまで大きな領地を持たない伯爵家出身の一官僚にすぎなかったが、見た目にたがわずかなり頭がよい人物であり、一説には彼が仕事で利用した書類などは、全てその内容を暗記しているという。
また、官僚的な頭の良さだけでなく、機を見るに敏な性格であり、上述のクーデターを成功させたのもその頭の回転の速さによるところが大きい。
しかし…………それ以上にこの男は、血液の代わりに権力欲が体中を巡っているとも評すべき非常に権力欲の強い男で、帝都無血開城を主導した功績を持って、次期皇帝となるレオニスに積極的に取り入ろうとしていた。
ベルリオーズやランツフートらはまだアゴスティーニのことを帝国に忠を尽くした功臣と見ているようだが、リクレールは内心でなんとなくこの男を放置していては危険だと思い始めた。
(エスペランサ、僕の思い違いであればいいんだけど、この人……トライゾンの代わりに帝国を私物化しようとする危険人物じゃないか?)
『さすがは主様、御慧眼でございますわ。まず間違いなく、このアゴスティーニという男は、新皇帝に取り入って権勢を振るう稀代の奸臣となることでしょう』
(じゃ、じゃあ……そんな奴はなんとかしてレオニス様の周囲から排除しないと! きっと出世のためには手段を択ばない人だろうから、汚職の証拠を集めて処刑してしまえば……!)
『西帝国のためを思うのであれば、それが最善でございましょう』
どうやらエスペランサも、リクレールと同じようにアゴスティーニから国を傾ける危険人物の兆候を感じ取ったようだ。
リクレールは幼いころから散々人の悪意に晒されてきたためか、こういった奸臣を見抜く力が養われているようで、すぐにでもこの男を何らかの理由をつけて処分しようと考えるのだが……
『お待ちください主様。せっかくでございますから、この男を精いっぱい利用させていただきましょう』
(アゴスティーニを利用する!? それってまさか、わざとこいつをのさばらせて西帝国を衰退させる気じゃ……)
『正確には「西帝国皇帝」の権威の衰退が目的でございます。新皇帝がどこまで賢君になるかは分かりませんが、わたくしはこの男の奸計に抗し得るのは難しいと考えますわ。今は賢明に見えるレオニス様も、次第にこの男の操り人形となり、皇帝の権威は地に落ちることなります。その時こそ、主様が新たに西帝国を導く旗手となるのでございます』
(そんな…………)
リクレールとエスペランサがそのようなことを考えているとも知らず、未来の奸臣は得意げにレオニスに何やら説明を続けている。
今この時から……いや、すでに西帝国衰退のカウントダウンが始まっているのだと思うと、リクレールはやりきれない気持ちでいっぱいになるのだった。




