第425話 好敵手
「リク……っ! そこまで、私のことをっ♡!」
『流石ですわ主様! いくら乙女心がわからない主様と言えども、ここで一歩たりとも退いてはいけないことをわかっておられるようですね! 相手がいくら立派な人物であっても、わたくしが見込んだ女性を手放してはなりませんわ!』
珍しくリクレールが強気の啖呵を切ったこと、その対象が自分だったヴィクトワーレは嬉しさのあまり感涙し、エスペランサも満足そうにリクレールの背後で腕組しながら頷いていた。
「よっしゃあ、よくぞ言ったリク! 横恋慕を許すな!」
「ひゅーひゅーっ! いいよいいよリクレール君、もっと言ってやれーっ!」
「セィアもそう思います」
そして、背後に揃っている学生たちも、リクレールの恋を後押しせんとワイワイ騒ぎ立てるのだった。
一方ビュランは、あの超絶シスコンとして有名だったリクレールが、ほかのまさかほかの女性を好きになり、それがよりによって自分の妹であることに、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「いいや、俺は認めん。俺が認めた男でなければ、たとえ相手が古い付き合いのアルトイリス侯爵家だったとしても反対する。ベンジャミン、お前からも何か言ってやれ」
「え、私からですか?」
侯爵家同士の婚姻は相変わらず政治が絡んで面倒だなと、半ば他人事のように見守っていたベンジャミンは、まさか自分に会話のパスが回ってくるとは思わず、一瞬うろたえてしまった。
それでも、ベンジャミンはベンジャミンで、ザイドリッツの恋路を応援してあげたいという思いがあるので、すぐに彼の弁護を引き受けた。
「あのですね、アルトイリス侯爵がいくら婚約を主張したとしましても、そもそも婚約というのは家と家の契約なので、当人同士の口約束だけでは単なる恋愛ごっこにしかならないんですよ。それに、侯爵閣下はアルトイリス家を継いだとはいえ、まだ齢14であると伺っていますし、正式に結婚できるのはまだまだ先の話でしょう。そして何より、ヴィクトワーレ様との年齢差も7つも離れているというではありませんか。侯爵閣下が結婚適齢になる頃には、ヴィクトワーレ様が婚期を過ぎてしまいかねません。貴方様の思いも理解はできますが、家同士の結びつきは愛だけで決めてよいものではないのですから、ここはいったん身を引いていただくのが最善かと」
「む……なかなか正論を言いますね。でも、正論だからってだけでは、身を引いてあげようなんて思わないけど」
「はっはっは、だろうな! 俺が同じ立場でもそう思うだろうぜ!」
「ちょっと、せっかく僕がザイドリッツのために弁護したというのに、否定しないでくれよ!」
リクレールはもとより、ザイドリッツにまでそんなことを言われ、哀れベンジャミンは凹んでしまったが、ザイドリッツは相変わらずカラっとした笑顔で「まあまあ」と彼の肩を抱きつつ、改めてリクレールに向き直った。
「ベンジャミンの言う通り、本当ならお前のような子供には結婚の話はまだ早い、と言うところだったが……さっきお前が俺に向って堂々と言い放った啖呵、なかなか痺れたぜ。認めてやろう、お前はその歳ですでに一丁前の「男」だ。けど、お前も男だからこそわかるよな。俺も同じ男として生まれたからには、一度惚れた相手は、そう簡単にあきらめたりしないってな。ゆえに…………」
ザイドリッツは言葉の途中で、リクレールをびしっと指さした。
「今日から俺とお前は、ライバルだっ!!」
「ら……ライバルっ!?」
まさかここまで話が飛躍してくるとは思わず、リクレールは一瞬どうすべきか考えようとしたところで………
「双方とも、これは何の騒ぎだ」
廊下に凛とした男性の声が響き渡り、当事者野次馬問わず、揃って声がした方を向くのだった。




