第423話 三人の貴公子
「まったく、妹の奴……暫く会わない間に、随分とじゃじゃ馬になりおって……」
「落ち着いてくださいよビュラン隊長、流石に突然あんなこと言っても納得しないのも無理はない。むしろ、あれくらいしっかりしていた方が、かえって頼もしいですって!」
「やれやれ、せめて本人に予め話は通しておくべきでしたね。筆不精なのはあなたの悪いところですよ」
タイラスルス宮殿の廊下を、3人の立派な貴公子が歩いていた。
まず、先頭を歩く薄い金髪をソフトモヒカンにした、黒鉄の鎧を纏う堂々とした体躯の男がビュラン。ベルリオーズの嫡男にして、ヴィクトワーレの兄、そしてレオニスの近衛隊長を務める人物である。
その鎧には無数の傷が走っており、顔や腕にも切り傷の跡がいくつか残っているのをみれば、いかに彼が死線を潜り抜けて来たかがわかるだろう。
その後ろを歩くの二人の部下のうち、燃え盛る炎のようなオレンジ色の髪の毛の男が、今話題のエスマイル伯爵ザイドリッツ。非常に溌溂とした性格をしており、声を聞くだけでも周囲のやる気が満ちると言われるほどの好青年である。
幼いころからほとんど人質同然の扱いで遊牧民の部族に滞在していた故か、装備も比較的軽装で、戦場では馬に跨って常に最前線を駆け抜ける、レオニス軍の切り込み隊長でもある。
そしてもう一人、こちらはザイドリッツとは対照的に、深い青色の髪の毛を腰まで伸ばした、高位の術者が着るような白いローブを着用したクールな男はベンジャミンという。
アザンクール山脈の北端にあると言われている、どこの国にも属さない「魔術要塞」の出身と言われており、高位の氷魔法を得意とする魔術士であるほか、前のめり気味なレオニス軍の軍師も務めている。
今年で30歳になるビュランと、20代前半の部下二人とはとても固い絆で結ばれており、特に今回の内戦で絶大な活躍をしたザイドリッツは、ビュランからその腕を見込まれて「妹を嫁にやる」と約束されたのだった。(なおベンジャミンにはすでに恋人がいる)
ザイドリッツ自身はヴィクトワーレと今日まで顔を合わせたことはなかったが、先程コンクレイユ家の滞在している館でビュランから引き合わされたとき、そのあまりの美しさに思わずひとめぼれし、すぐにその場でプロポーズしてしまった。
だが、ヴィクトワーレにはすでに意中の人がいたほか、せっかく久々に会ったのに見知らぬ人勝手に婚約を結んだことに憤慨し、プロポーズを秒で蹴って屋敷から出ていってしまったのである。
この時代、貴族間での縁談が本人の意思と関係ないところで結ばれるというのはほぼ当たり前のことだが、本人に全く断る自由がないというわけでもなく、特にヴィクトワーレのようなある程度自力で生きていける女性は、相手が気に入らなかったり、意中の人がいると婚約を拒否することは往々にあった。
しかし、だからと言ってビュランはあっさりとザイドリッツとの婚約を撤回するわけにもいかない。
コンクレイユ侯爵家にとっての政治的な理由ももちろんあるが、ビュランにとってはザイドリッツを将来的に侯爵位に推薦したいと思っており、そのためにコンクレイユ家から妻をめとるという事実は大きな後押しになるし…………なにより、ビュランという人物は約束事に非常に厳格で「男が一度交わした約束は死んでも違えない」というポリシーの持ち主なのが、この事態をややこしくすることになる。
「大丈夫です、ビュラン隊長。俺も男ですから、一度決めた女のことは、そう簡単にあきらめたくない」
「おお、よくぞ言った! やっぱり妹を任せられるのは、お前しかいない!」
「僕もできる限り応援しますよ。っと、噂をすればあれはヴィクトワーレ様では?」
彼ら3人は屋敷を飛び出していったヴィクトワーレを捜し歩いていたのだが、果たして宮殿の向こうの通路からヴィクトワーレがこちらに歩いてくるのが見えた。
隣にはヴィクトワーレより背が低い男の子を、そしてその後ろには、大勢の士官学校の生徒たちを引き連れて…………




