第422話 婚約とは
キトレルの話を聞いて、北方を進んだレオニスたちがいかに苦労したか、ベルリオーズやビュラン、そしてリクレールがまだ対面していないザイドリッツという人物が、いかに素晴らしい活躍をしたかが窺い知れた。
そして、そんな活躍をする人物にぜひ会ってみたいとリクレールは思いを募らせていた。
だが、そんなところに……ベルリオーズたちに会いに行ったはずのヴィクトワーレが、何やら不機嫌な様子で戻ってきた。
「あれ、トワ姉? ベルリオーズさんたちとの話はもう終わったの? もっとゆっくりしててもいいのに……って、なんかすごい怖い顔してるんだけど!? 何かあったの!?」
「ねえリク…………」
不機嫌さを隠そうともしないヴィクトワーレは大股の足取りで一直線にリクレールの座席の前までやってきて、急に両肩を掴むと、キスが出来そうなくらい顔を近づけて来た。
「と、トワ姉!?」
「リクは、私と婚約したわよね」
「婚約!? そ、そうだよ、少なくとも僕はそのつもり!」
『いまさら何をおっしゃられますのヴィクトワーレ様。このエスペランサが認めたのですから、疑う余地はございませんわ』
「だ……だったら、もう結婚してもいいわよね!! 今すぐどこかの神殿で結婚式をしましょう! そしてそのままベッドで愛を――――」
「待った待った待った! 話が見えないから、落ち着いて、ね!」
「おいおい……いきなりなんでこんな修羅場を見せられなきゃいけないんだ。あとリクが婚約していたとか初耳なんだが」
部屋に入って来るや否やいきなり結婚を迫るヴィクトワーレ。
しかも、シャルンホルストとキトレルがいる前で、堂々とこのようなことを言うのだから、余程切羽詰まった何かがあるのだろうが、リクレールはまず一旦落ち着かせて事情を聞こうとした。
ところが……ヴィクトワーレの行動に、キトレルが別の意味で眉をひそめた。
「ヴィクトワーレ様がアルトイリス候と、婚約? 話が違うではありませんか、少なくとも私はそのことは知りませんでした」
「話が違う? キトレルさんは一体何を言っているの?」
「帝国の内乱を平定した暁には、ザイドリッツ様はヴィクトワーレ様と結婚される。ビュラン様はそうおっしゃっていたではないですか」
「トワ姉が!?」「ザイドリッツと結婚!?」
突然降ってわいたとんでもない話に、リクレールとシャルンホルストは驚きのあまり、思わず大声で叫んでしまった。
この二人が挙げた声があまりにも大きかったことで、ほかの部屋でくつろいでいた学生たちが、一体何事かとぞろぞろ集まってくるのだった。
「どうしたどうした、何事だ!?」
「今結婚するとか聞こえたわ! 誰が結婚するの!? まさかリク君とシャル君!?」
「んなわけあるかバカ」
「うわっ、みんな集まってきちゃった!? と、とにかくトワ姉、説明をお願い!」
「う、うん、わかったわ」
大勢が詰めかけてきたことで却って気圧されたヴィクトワーレは、ようやく落ち着いて詳細を話すことになった。




