第421話 英雄の戦い
一連の謁見が終わり、夜に改めて諸侯を集めた宴会が開かれるとのことで、一行はその間は割り当てられた部屋で自由に過ごすこととなった。
リクレールはレオニスの為人に興味を持ち、もう少し色々話してみたい気持ちもあったが、やはり次期皇帝として今は多忙らしく、後日改めて面会の時間を貰うことになる。
代わりに、ここまで案内してくれたキトレルが今は時間に余裕があるということで、まず一番気になっていた北方戦線で何があったかを聞くことができた。
「まずはどこから話しましょうか。侯爵閣下はもうお気づきかとは存じますが、私キトレルは北方平原の民を束ねるラガテア族の出身でございます。我らは基本的に帝国に服することなく、時に交易を重ね、時には町や村を略奪するなどしておりましたが……以前より帝国のエスマイル伯爵家は我が一族に融和的な政策を持って手を差し伸べていただき、伯爵家の一部の土地を我らと共有することをお許しいただいたり、毛皮やチーズ、羊毛などを交易品として買い取っていただくことで、生活も豊かになりました。そのエスマイル伯爵は、残念ながら先の内戦で命を落とされましたが、伯爵の跡取りであるザイドリッツ様が、皇太子殿下と共に我らの元に落ち延びてまいりました」
「エスマイル家と言えば、伯爵ながら辺境を守護するために領土や軍事力は侯爵家並だって聞いたことがあるね。シャルは知ってるの?」
「ああ、よく知っているとも。先代の伯爵ジアモンさんは親父とも仲が良かったし、長男のザイドリッツさんは幼いころから友好のために遊牧民の一族に人質のような形で送られて、そこで子供のころから騎兵による戦術を磨いたという凄い人だ」
レオニスが幸運だったのは、武勇ではヴィクトワーレ以上の強さを誇る兄のビュランがいたことに加え、ザイドリッツという遊牧民に縁がある猛将がいたことだろう。
冬に大陸の最北地を逃げるのは命がけだっただろうが、現地の遊牧民と合流して、何とか凍え死ぬことも飢え死にすることもなく、安全な場所までたどり着くことができた。
ただそれでも、帝国の大半はすでにマルセラン側が抑えていたこともあり、リヴォリ城が陥落すればコンクレイユ家とアルトイリス家だけでは太刀打ちできないかもしれなかったので、最悪春になるまで身を隠した後、アザンクール山脈を越えて東帝国に亡命することも考えていたようだ。
「蜂起までの間、我らはひたすら遊撃に徹し、帝国軍の後方を脅かすことに努めた。そして、コンクレイユ侯爵がロディ渓谷でマルセランの軍に大被害を与えたと知った時、私たちは満を持してレオニス殿下が生きていることを知らしめることができた。そして、マルセランの軍勢が帝都まで退いたのを機に、ベルリオーズ様の軍と合流することができたのです」
「そうかぁ、それでレオニス殿下はあんな北の地で蜂起することができたんだ。遊牧民と帝国はあまり仲が良くなかったはずなのに、力を貸してもらえたのはそう言う理由があったんだね。戦いが終わっても、変わらずに仲良くできたらいいな。それにしても…………合流したとはいえ、ベルリオーズさんの兵約6000人と、レオニス殿下の蜂起軍合わせても8000人を超えるかどうかくらい、だよね? おまけに冬の北方街道沿いの城塞や町を攻略するのは、あまり現実的じゃないように思えて……」
「特に途中にあるベルゲン要塞は、かつて500人の帝国兵だけで、1万人の遊牧民の大軍勢を退けた実績がある難攻不落の拠点だ。リクがやったように、要塞を素通りすると見せかけて誘い出すようなことをしなければ、とても落とせるとは思えないんだが」
「もちろん、ここまでくる道のりはない大抵の苦労ではありませんでした。凍てつく気候に、立ちはだかる数々の要塞、そしていつ来るかもしれないマルセラン本隊の逆襲……現にベルリオーズ様は、帝都まで遠征できるだけの装備を整えてから侵攻すべきだと主張いたしましたが……ザイドリッツ様は、ユルトラガルド家が苦戦している現状、一刻も早く帝都を陥落させるべきと主張したのです。用意は万全とは言えませんでしたが、各地の貴族や豪族がレオニス様の蜂起を知って協力を申し出たことで、何とか帝都まで進めるだけの物資を用意することができました。また、敵からも次々と内応する者が現れたことで、いくつかの拠点では戦わずして手中に収めることもできたのです」
あまりにも無謀ともいえる侵攻作戦と、それを成功させたレオニスたちの活躍を聞いたリクレールとシャルンホルストは、内心で「本物の英雄とはこのようなことをするのだな」と感心してしまった。




