第420話 謁見
「レオニス様、ユルトラガルド侯爵閣下らをお連れいたしました」
「おお、ご苦労だったキトレル! ランツフート伯父さんも……いえ、ユルトラガルド侯爵も、居城が包囲されたと聞きおよんでいたが、無事で何よりだ!」
「レオニス殿下こそ…………ご無事で何よりでございました。殿下が生きていなければ、帝国の内乱はより深刻なものとなっていたことでしょう。本当に……生きていてよかった」
キトレルの案内で謁見の間に通されたランツフートたちを、栗毛色の髪の毛が特徴的な皇太子レオニスは、わざわざ玉座から駆け下りて出迎えた。
ランツフートにとっては、弟の娘シャルロッテの結婚相手であるレオニスも、自分の息子と同じくらい可愛がっており、ようやく無事な姿を見てその場に跪き、差し出された手を両手で握ってさめざめと泣き始めた。
猛将ランツフートが周囲も憚らず感情的に泣きだしてしまったことで、レオニスも絶体絶命の窮地にあった伯父が生きていた嬉しさにこれまた涙を流し――――
「よかったねぇ……! 本当に、よかったねぇ!」
「そ、そんなに泣くなよリクっ! おやじも……次期皇帝の前で、みっともねぇよぉ!」
それにつられてリクレールが感動のあまり泣いてしまい、シャルンホルストを初め、周囲の人間にあっという間に涙が波及していくのだった。
ひとしきり再開の涙を流した後、レオニスは改めてリクレールを呼んだ。
「君が噂の……アルトイリス侯爵を継いだという、リクレールか。こうして顔を合わせるのは初めてかな」
「は、はいっ! 亡き姉のマリアに替り、アルトイリス侯爵家を継ぎました、リクレールです! 先代の皇帝陛下は侯爵家を継ぐ辞令をいただく前に崩御されたため、まだ正式な任命を受けていませんが」
「なんとそうであったか! 君には私の娘を救ってもらった大恩がある、すぐに正式にアルトイリス侯爵の地位を認める辞令を出そう! それにしても、コンクレイユ候から話は聞いてるが、まさか私より年下にもかかわらず、様々な策を用いてブレヴァン侯爵の野望を打ち砕いたそうではないか。君のその顔からは、確かに非凡な知性が感じられる……いずれこの帝国の礎を担う者として、大いに期待しているよ!」
「そ、そそそ、そんな! 僕になんか勿体ないお言葉ですっ!」
初対面の人に第一印象を褒められたことが滅多にないリクレールは、顔を真っ赤にして分かりやすく動揺する。
泣いたり照れたりで、実に感情が忙しい日であった。
「シャルンホルスト、こうして会うのも久しぶりだね。君も今回は大活躍だったそうじゃないか」
「あはは、レオニス……皇帝にため口を聞くと、うちの親父から拳骨入れられそうだから「友人」として喋るのは、流石にこれで最後にさせてもらう。しかし、良く逃げ切ったな、俺も命がけで戦った甲斐があったよ」
シャルンホルストとレオニス同い年の親戚なだけあって、昔から付き合いがあり、何なら友達歴はリクレールより長い。
皇太子時代はお互いざっくばらんに話せていたが、今後レオニスが皇帝になると、流石に今までのような友達同士のやり取りをすることはできないだろう。
「そしてヴィクトワーレ。君の兄ビュランには随分と助けてもらった。それに、コンクレイユ候も素早く動いてくれたおかげで、私も実にいいタイミングで諸侯に存在を明かすことができた。それに、そなたも一軍の将として、随分武功を上げたと聞き及んでいる。心から礼を言うぞ」
「ありがとうございます! コンクレイユ家が帝国に貢献できたことを、誇りに思います!」
「うむ、そなたの父と兄も、そなたに会いたがっていた。もしよければ、すぐに顔を見せに行ってやってほしい」
「わ、わかりました、お心遣い感謝します!」
ヴィクトワーレも無事だった兄に一刻も会いたかったらしく、レオニスの許可を得て謁見の途中で退出した。
リクレールはレオニスがこのような心配りができるのであれば、次期皇帝として頼りになるだろうと心の中で思うのだった。




