第416話 自慢の子供たち
リクレールたちがのんびりと羽を休めること数日、ついに「その時」はやってきた。
「お初にお目にかかります、私はレオニス殿下の臣下、キトレルと申します。ユルトラガルド侯爵閣下に置かれましては、此度のブレヴァン侯爵の反逆を食い止めたこと、殿下は大変お喜びにございます」
「使者殿、遠いところをご苦労だった。某にとってもレオニス殿下が生きていたことは、何よりの希望でござました」
リヴォリ城の謁見の間で、ランツフートがレオニスから派遣された使者の女性キトレルを立って出迎えた。
ただ、ユルトラガルド家はランツフートの弟の娘――すなわち、帝都から非難してきた末にリエナを生んで亡くなったシャルロッテが嫁いでいることから、レオニスの臣下の全員と面識はあるはずだったが、キトレルは初めて見る顔で、しかも帝国風の衣装で着飾ってはいるが、北方遊牧民らしい特徴がいくつもあることから、いつの間に遊牧民を協力を得ていたのかと内心ややいぶかしんでいた。
とはいえ、キトレルから受け取った書状は紛れもなくレオニスが書き記したものであり、キトレルが今回の内戦で新たに加わった臣下であることはすぐに受け入れた。
「そして……この度の戦いでは閣下のみならず、ご子息も大いに活躍したと耳に入っております」
「ああ、うちのシャルンのことだな! こいつは本当によくやったぞ、というか、俺は引き籠っていただけだったから、ユルトラガルド家の活躍は殆どシャルンの手柄だ! 父親としても誇り高い限りだ!」
「うおととと、いきなり腕引っ張るなって! あ、あとそこまで言われるとかえって恥ずかしいよ親父!」
ランツフートは傍に控えていたシャルンホルストの腕を強めに引っ張って、キトレルの目の前に立たせると、息子の功績を大いに自慢し始めた。
同じく近くで同席していたリクレールとヴィクトワーレも、この微笑ましい光景に思わず笑みを浮かべていたが、シャルンホルストは自分だけ恥ずかしい思いをしたくなかったのか、今度は彼自身がリクレールの手を取ると、困惑するリクレールの手を無理やり引っ張って、父親と同じようにキトレルの前まで連れて来た。
「俺の功績なんて、リクが……いや、アルトイリス侯爵リクレールがしたことに比べれば、なんてことないですよ!」
「え、えとっ、はじめましてっ! 姉のマリアからアルトイリス侯爵を継いだリクレールです!」
「まあ、あなたがアルトイリス侯爵閣下なのですね!」
リクレールが自らをアルトイリス侯爵と名乗ると、キトレルは目を丸くして口に手を当てた。
「お話はコンクレイユ候(ヴィクトワーレの父ベルリオーズのこと)から聞いておりますが、本当にまだお若いのですね!」
「はい……御覧の通り、僕はまだ大人ですらない非力な身でして、頼りなく見えるかもしれないですが」
「いえいえ、こちらこそ失礼しました! 頼りにならないだなんて思ってはいません! むしろ、コンクレイユ候からは、まだ年少であるにもかかわらず、ロディ渓谷の確保を進言しただけでなく、賊軍側の有力諸侯であるブレヴァン侯爵の大軍を決戦で撃ち破ったと聞き及んでおりましたので、お目にかかるのを楽しみにしておりました。リクレール様のような、若くとも素晴らしい才能の持ち主が名家アルトイリス侯爵を継いだことは、レオニス様にとって何よりの吉報でございます」
キトレルがリクレールをべた褒めすると、ランツフートは「そうだろう! そうだろう!」と大喜びして何度も頷き、シャルンホルストも気恥ずかしそうにしていたし、ヴィクトワーレは誇らしげな表情になっていた。
「あ……ありがとうございます。もちろん、僕だけの力じゃないです。まだまだ未熟なところが多くある僕を支えてくれたたくさんの仲間がいますので、レオニス殿下が玉座を取り戻しましたら、彼らのことも表彰してあげてくださいね。トワ姉……じゃなかった、ヴィクトワーレさんにも戦いで大活躍してくれましたし!」
「わ、私がヴィクトワーレですっ! 父に恥じない活躍ができたなら幸いです!」
「………そう、あなたが」
「えと、どうかしました?」
「いえ何でもありません」
リクレールから話を振られるような形で自己紹介するヴィクトワーレだったが、一瞬キトレルが難しそうな表情をしたように思えた。




