第414話 休息の約束
リクレールとしては、もっと先の話になると思っていた帝都タイラスルスへの侵攻が、もうすぐに始まりそうだと知って、頭を抱えたくなった。
「どうしよう……レオニス様がもうそこまで来ているということは、僕たちも早く合流しないと拙いよね。けど、僕が率いてきたアルトイリス軍本隊も、シャルに貸していた別働部隊も、連日の戦いで消耗しているから、これ以上連戦させるのは難しい。それに、ブレヴァン侯爵家の生き残りのフランシールが自由交易都市同盟で確認されたことを考えると、反乱の危険がある後方にも兵を配置しておかなきゃならない」
「そうね、私もこの報告を受けたのがまさに今日の闘技大会の最中だったから、全く準備ができていないわ。だから、ガムランさんたちに急いで物資の補充を依頼しようと思って」
「左様でございますか。確かに、消耗した矢や破損した武器はすぐに補充せねば、攻城戦などできませんからな。それに、攻城兵器を組み立てる物資も入用でしょう。武器だけなら何とかなりますが、攻城兵器用の部品はいまから工房に発注するほかありますまい」
味方の軍が大きく前進したのはありがたいことには違いないのだが、それを率いているのが次期皇帝レオニスである以上、リクレールは顔出ししないわけにはいかないだろうし、場合によってはそのままなし崩し的に攻城戦に参加させられる羽目になりかねない。
(最悪、僕とエスペランサが血路を開いて、宮殿に突入するか……?)
『なるほど、それもアリでございますわね! わたくしの力があれば、敵兵を1000人斬ることも容易ですわ!』
(あ、あくまで最後の手段だからね! おそらくレオニス様の軍も、北方街道を進軍してそれなりに消耗しているに違いないから、態勢を整えてから攻撃に移るよう具申した方がいい)
その気になれば1人で帝都を陥落させられると意気込むエスペランサに、流石にそれはいかがなものかと止めるリクレール。
例え本当にできるとしても、リクレールとしては流石にそんな悪目立ちすることはしたくなかった。
「ともかく、レオニス様からはそう遠くないうちに正式に合流の勅命が下るだろうから、改めて僕やトワ姉が動ける兵だけ連れて面会しよう。兵士たちが十分休めたら、再編成して戦列に加わっても遅くはないはずだ」
「そうね、私たちの騎士団だけなら準備すれば動けるから、当面の兵力はそれで許してもらいましょう」
「ありがとうトワ姉。兵士たちにはこれ以上無理はさせられないからね」
「……リク」
突然、隣に座っていたヴィクトワーレが、リクレールの手を強く握ってきた。
「え!? ど、どうかしたのトワ姉!?」
「兵士たちに休んでほしいのももちろんだけど、私が一番休んでほしいのはリクなの! アルトイリス城を出発してから、ずっと働きっぱなしで、リヴォリ城に来てからもちっとも休んでいないのに、そんな状態でさらに帝都の戦いに駆り出されたら…………」
「そんな、大袈裟だよトワ姉! レオニス様の軍と合流するだけなら、そんなに疲れることはないし」
「ううん、大袈裟なんかじゃないわ。それに、リクが休まなかったら、他の子たちや兵士たちも安心できないわ」
「うっ……」
ヴィクトワーレの言うことはもっともだった。
ここ数日、何度シャルンホルストやウルスラ先生、それにユルトラガルド侯爵ランツフートに少し休めと言われたことか。
リクレールとしてはやることが山積み過ぎて、まずそっちを片づけないと休む気になれないのだが、他の人の迷惑になるなら話は別だ。
「わかったよ……トワ姉。レオニス様から正式な招集が届くまで、体を休めることを最優先にする、約束するよ」
「ふふっ、よろしい。お姉さんの言うことを聞けて偉いわ♪」
「も、もう……またそうやって子ども扱いするんだから」
「あの、リクレール様、ヴィクトワーレ様……言いにくいのですが、某どももいるのをお忘れなきよう」
「「あっ」」
急に甘ったるい雰囲気になってきたところで、ガムランが申し訳なさそうに自分たちの存在を主張すると、二人は顔を真っ赤にして我に返るのだった。




