第412話 商売は早さが命
夕方――闘技大会が終わり、クラスメイト達と改めて勝利を祝いあったリクレールだが、疲れがたまっていることから、士官学校生徒たち一堂による戦勝パーティーは明日以降に行うこととし、彼自身は来賓用に借りているリヴォリ城の一室に戻ってきた。
戦いが終わって改めて疲労がたまっていることを自覚したリクレールは、沐浴をした後は食事もとらずに寝てしまおうかと思ったが、エスペランサから『せめてお食事は3食きちんとお取りくださいませ』と激しく抗議されたため、部屋でのんびりと食事でもとりながらゆっくり過ごすことにした。
ところが、彼が部屋に戻ると既に先客がいた。
「リク、お疲れ様。ようやく一区切りついてよかったわね」
「トワ姉!」
まず出迎えてくれたのは、普段着を着たヴィクトワーレだった。
ヴィクトワーレとその配下の騎士団も、一連の戦いで重要な役割を担い、勝利に大きく貢献してくれたが、やはりそれなりに疲労がたまっているということで、ここ数日は訓練なども行わずに英気を養っていた。
そして今日も、闘技場で闘技大会という名の公開処刑を最前列で観覧し、飛び込み参加したい気持ちをぐっとこらえていたようである。
「今日の戦い、私も見ていたわ。戦場じゃないところでリクが戦っているのを見るのはなんか不思議な気分だったけど、本当にすごい動きだたわ。うちのお父様より強いんじゃないかしら」
「そ、そうかな? さすがにベルリオーズさんほどでは……」
『何をおっしゃいますか、わたくしの方が強いに決まっていますわ』
エスペランサが抗議するも、二人は聞かないふりをした。
なぜなら、部屋にはもう3人ほど客がいるからだ。
「おぉリクレール様!! お久しゅうございますぞ!」
「やっほー、侯爵様! 僕と妹も、今日はずっと闘技場にいたから、侯爵様の活躍もよく見えましたよ!」
「食べ物を売り歩いていたんですけどねー、あはは」
「ガムラン! それに、ゼルモスとカドマーも! もうこっちに来ていたんだ、早いね!」
「にょっほっほ! 商売は早さが命ですからな、物資輸送に使った輸送船の手が空いたものですから、今度は我らが利用させていただきましたぞ!」
太っちょ貴族のガムランに、東帝国との行き来で活躍してくれたドワーフ商人の兄妹である、ゼルモスとカドマーがいた。
ゼルモスとカドマーは相変わらずその小さな体がかわいらしかったが、ガムランはというと…………
「ガムランもしばらく見ないうちに随分と健康的になったみたいで、僕は嬉しいよ」
「リクレール様……それは、皮肉ですかな?」
「ほんと、あなたはよくコロコロ見た目が変わるわね……東帝国に行っていたときはあまり気にならなかったけど、しばらく見ないうちに変わると、やっぱ違和感あるわ」
「ははは、おかげで息子からは「お前誰」と言われ、うちの宰相からはせめて10パルム(1パルムは現実世界の約0.45kg相当)体重を戻すよう通達されましたぞ」
蓄えた贅肉はどこへやら……戦時中はずっと後方支援の仕事に追われていたガムランは、リクレールが城を出発した時点で大分痩せてきてはいたが、今や見違えるようなスマートイケメンになっており、直接戦闘に参加しない者でもこのような激務の渦中にあったのだということが察せられた。




