第411話 次の戦い
「リク! やったな、とうとうやったな!」
「シャル……! 僕、その……っ」
「おっと、大丈夫か!?」
アヴァリスを斃し、何とも言えぬ余韻に浸っていたリクレールに駆け寄るシャルンホルストと、同じクラスの仲間たちだった。
リクレールは駆け寄ってきた彼らと喜びを分かち合おうとしたが、なぜか一瞬よろめいて転びそうになり、シャルンホルストが慌てて受け止めた。
「大丈夫、少しくらっとしただけだから」
「そうか……それならいいんだが、おそらく疲れがたまっているのだろうな。なんでも、このところ夜遅くまであのブレヴァン侯爵に、何やらいろいろ話を聞いていたようだし」
「シャルンホルストの言う通りだぜ。疲れた兵士は満足に戦えないって口酸っぱく言っていたのはお前だろ? そのお前が無理してどうするよ」
「そうそう! あの嫌な奴をぶっ飛ばせてすっきりしたんでしょ! 今日は満足してゆっくり休みなよ! 私だって、突撃しまくった日は気持ちよく爆睡できるし!」
「みんな、ありがとう。確かに、ちょっと疲れているのかもしれない。今夜くらいは早く寝ることにするよ」
シャルンホルストの言葉に、ゼークトやスーシェら元気印の同級生たちも同調し、リクレールも彼らの言うとおり、しばらくはゆっくり休もうと考えた。
戦いのあった闘技場のフィールドでは、すでにユルトラガルド侯爵家の兵が、無惨に斬り殺されたアヴァリスたちの遺体を片づけ初め、そのすぐ後ろではランツフートが観客たちに闘技大会の閉幕を宣言する。
その声を背後に聞きながら、クラスメイト達と共にフィールドから控室に戻る間、リクレールは心の中でエスペランサとお互いを労いあっていた。
『改めまして、おめでとうございます主様。これで、主様を阻む大きな障害の一つが消え去り、かつて受けた仕打をまとめて清算することができましたわ。見下していた主様に、逆に侮蔑された時のあの男の顔は、わたくしの記憶している中の傑作のひとつとなるでしょう。しかし……てっきり主様はもっと喜ぶかと考えましたが、あまりうれしそうではございませんわね」
(う~ん……どうなんだろう。正直、アヴァリスに散々されてきたいじめや嫌がらせは、今でも許せないと思っているし、それをしてきた白竜学級の人たちをこの手で倒せたことは、僕としても一区切りついたような気分のように思える。けど……アヴァリスを殺したからと言って、その嫌な記憶が消えるわけじゃないし、あんな情けない男一人殺したところで、結局何も得るものがなかったなと思って)
普通の人であれば、散々自分をいじめて、下手すれば命を落としかねないことをしてきた相手を、直接その手で殺すことができたのなら、多かれ少なかれスカッとすることだろうが……リクレールは不思議とそのような気分にならなかった。
おそらくだが、そう言った経験は、すでに士官学校の決闘で事実上勝利した時に得てしまっており、リクレールにとっては今回の戦いは単なる「作業」や「儀式」以上の意味を得られなかったのだろう。
『なるほど……おそらく、主様は向上心が非常に強いからこそ、今回はそのような気分にならなかったと考えますわ』
(向上心?)
『主様にとって、結局あの男はすでに過去の残滓にすぎず、此度の戦いでは全く手応えのないまま殺したことで、すでにあの男は主様の前に立つ価値のない者だと再認識しただけにとどまったのでしょう。何しろ主様は……もう既に「次の戦い」に心が向いているのですから』
リクレールにとってのアヴァリスは、もはや驚くほどに優先度が低いことになっていたのだろう。
ただそれでも、今回の決闘は決して無意味なものではなく、リクレールの心情的に大したことがなかろうとも、大衆の目の前で一方的に決闘で勝ったという事実は、ブレヴァン侯爵家の名誉を根こそぎ失墜させ、アルトイリス侯爵の強さを改めて世に知らしめることができただろう。




