第408話 落ちこぼれ
「はーっはははっ! 士官学校で最も権威のあるデュカス先生から「白竜学級始まって以来の能無し」と判を押された落ちこぼれが、随分とデカい口を叩くようになったものだ! おい、今この場にいる者たちよ、騙されるな! このリクレールという男は、家の権威だけで士官学校にコネ入学した挙句、まともに剣も振れず、いつもいじめられては泣いていた、情けない落ちこぼれだ! そんなどうしようもない奴が英雄面して、まるで自分が勝者だと言わんばかりの態度をしている! 滑稽だと思わないか? わかったら、この情けない落ちこぼれに、めいっぱいの罵声を浴びせてやるがいい! そうすれば、このシスコンは遠くにいる大好きなお姉さんに泣きつきに行きたくなるかもしれないな!」
闘技場のど真ん中で、アヴァリスはまるで自分が名俳優になったかのような大げさな身振り手振りで、リクレールの悪口を大声で言い放った。
この期に及んでも現実が見えない、外野から見ればいっそ可哀そうに思えてくるが、アヴァリスは本気で観客がリクレールの正体を知って、自分の味方に付いてくれると確信していた。
だが、アヴァリスが自分に寄ったかのような演説をし終えた直後……今度はリクレール淡々と語り始めた。
「ああ、そうとも。君の言う通り、かつての僕は家柄以外何の取り柄もなかった、弱い奴だった。姉と比べて勝っているところが何一つなくて、武門の家系なのに身体は虚弱で剣の腕前は平民以下、両親は僕のことを自分の子供と認めたくないくらいだった」
「……ふん、流石に自分の愚かさくらいは自覚しているようだな」
リクレールがアヴァリスの言ってることに反論してくるかと思いきや、そのまま受け入れて自分を卑下しだしたので、アヴァリスは一瞬面くらったが、すぐにその態度からリクレールを取るに足らない奴と再認識し始める。
だが、リクレールの反撃はここからだった。
「けどね、アヴァリス。僕はお前と違って、自分が落ちこぼれの弱者だってことをきちんと理解していた。だから、僕からすべてを奪って嘲笑うだけだった白竜学級から、シャルが助けてくれた後、弱者なら弱者なりに出来ることはあるか、必死に頑張って、努力して……聖剣アレグリアを持つことは叶わなかったけど、この魔剣エスペランサは僕のことを認めてくれて、僕に足りなかった戦う力を授けてくれたんだ。君は僕のことをずっと……今でも昔と変わらない弱虫だと思っているようだけど、その弱虫はフォントラル侯爵領で敵軍3000人を壊滅させて、ブレヴァン侯爵領の首都を無血占領して、ラヴェルでは25000人以上の大軍を全滅させたんだ。君がいくら信じたくないと拒んでも、これは現実に起きたことだ。それでも君は……僕のことを弱いと言うの? まだ自分は勝つと信じているの?」
「あ、当たり前だっ!! お前が何をどうしようが、俺の勝ちは絶対に揺るがない!! お前に負けるなど、ありえないんだっ!!」
現実を突きつけられてもなお、アヴァリスは自分が負けるわけがないと喚き続けた。
そんなアヴァリスの姿を見たリクレールは、怒るでもなく、むしろ深く失望したような表情を見せる。
「アヴァリス……君を見ていると、自分が情けなく思えてくるよ」
「はっ、そうだろう? 選ばれし者であるこの俺と比べられると、お前の惨めさが嫌でも――――」
「勘違いしないでほしいな。情けないって言うのは、昔の僕は、こんなしょうもない奴に人生を台無しにされそうになったんだって、自分自身が情けなく思えてくるからだよ。いくらどうしようもない僕だったとしても、相手がもっと立派な奴だったら、むしろ箔が付くくらいなのに、君が自分の価値を落とし続けているせいで、僕自身の価値まで下がっていく気分だ」
「な、何をふざけたことを……」
「わからないなら教えてやる。無駄にプライドが高くて周囲を見下すのを止めず、自分の才能を鼻にかけているせいで、以前から一切の進歩がみられない。それなのに自分は特別だと思い込んで、都合が悪いことは全部他人のせい。そんなお前のことを、なんて言うか知っているかな? そうだね『落ちこぼれ』だね」
「……っ!! き、きさまぁっ!! 俺のことを落ちこぼれだとぉっ!! ゆ……許さん!! ゆるさんゆるさん!!」
リクレールを馬鹿にしているはずが、そのままそっくり「おちこぼれ」という言葉を返されたことで、アヴァリスは反論もできずに一気に激怒するのだった。




