第407話 アウェー
そしていよいよ闘技大会当日となり、リクレールとアヴァリス(および最後まで一緒にいた同級生たち)の決闘は、メインイベントとして最後に開催されることになる。
この日までアヴァリスたちはしっかりと休息を取り、食事も十分とったおかげて、ボロボロの状態だったのが嘘のように元に戻っており、おまけにユルトラガルド軍から決闘に使用する武器を受け取って、きちんと整備されていることを確認した。
だが……それでもアヴァリスの顔は不安でいっぱいだった。
(大丈夫だ……俺は負けない、負けるはずがない)
心の中ではそう強がっているが、心情的には許嫁のレイアや恩師のデュカスが亡くなってから敗戦続きであることが堪えているようで、無意識下では「今度も負けるのではないか」と、疑心暗鬼になりかけているのだろう。
「お前たち、出番だ。この先の扉から出ろ」
「ふん」
高圧な態度で案内する牢番に悪態をつきながら、アヴァリスたちは満を持して地下から階段を上って扉を開くと――――大歓声と共に、だだっ広い闘技場のフィールドと、観客席を埋め尽くす黒山の人だかりが目に飛び込んできた。
既に幾多のブレヴァン軍の捕虜がこの場で倒されており、観客たちの興奮はいよいよ頂点に達しており、老若男女問わず目をぎらつかせながら「許すな! 殺せ!」と拳を振りかざして叫び続けている。
その圧倒的アウェーな光景に、アヴァリスたちは思わず腰が抜けそうになったが、何とか歯を食いしばって、その場に踏みとどまった。
そして、彼らの対戦相手にして、自分たちをこのような目に遭わせた元凶……リクレールは、すでにフィールドの中央に立ち、その手に濃紫の妖艶なシルエットの大剣を握っていた。
それを見たアヴァリスたちは、なぜリクレールがあのようなルール変更を提案したのかを悟り、安易に受け入れてしまったことを後悔する。
「くそっ、俺たちに有利な条件だと思ったら、あいつだけあのデカい剣を使うなんて、卑怯じゃないか!?」
勿論、リクレールが普通の武器を使ったところで、有利不利はさほど変わりはないのだが、アヴァリスたちはそんなこと知る由もない。
「アヴァリス、どうやら逃げずに来てくれたみたいだね。しっかり休んで、きちんと栄養も取ったみたいで何よりだ」
「はっ、随分と余裕そうな顔だな。あの時は引き分けたが、今度という今度こそ俺はお前を殺す! お前のような落ちこぼれが、俺の手にかかって死ねることを幸せに思え!」
「落ちこぼれね…………正直、僕が昔落ちこぼれだったかどうか、今は関係なくない? 君が相手しているのは今の僕なんだから」
この期に及んでも「落ちこぼれ」と言ってくるアヴァリスに、リクレールは呆れ気味だったが……アヴァリスはなぜかその反応を「図星を突かれて動揺している」と判断した。
(ああそうだ……あの無礼な平民の娘は結局理解しなかったが、こいつの悲惨な過去は何をどうしようと、消すことなどできない! ちょうどいい、これだけの観衆がいるのなら……!)
どうやらアヴァリスは、またしょうもないことを考えているようだった。




