第405話 獣の檻
話は再び数日前に遡る。
一時は地下牢に放り込まれていたアヴァリスと、最後まで彼に付き従った6人のクラスメイトたちは、リクレールの依頼によってユルトラガルド軍によって事前に闘技場に移送された。
彼らが移送されたのは、地下にあるかなり大きめの鉄格子が付いた部屋で、本来の用途としては闘技大会で使う猛獣や魔獣を、一時的に飼育するためのスペースになっている。
広大な牢獄に全員纏めて閉じ込められたアヴァリスたちは、自分たちを獣と同等に扱うことに何度も不満を述べてはいたが、闘技場の檻は地下牢に比べればはるかに風通しがよく、獣用とはいえ体を洗う場所やトイレも併設されているので、皮肉にもこちらの方がはるかに過ごしやすかった。
一体自分たちに何をさせるつもりだと彼らが困惑していると、こちらの方にもリクレールが直々に顔を出した。
「アヴァリス、それに白竜学級のお友達も、用意した特別な部屋は気に入ってくれたかな?」
「ふざけるな! 俺たちをこんな下等生物の檻に閉じ込めてどうするつもりだ!」
「勿論、君たちには見世物になってもらう」
「み、見世物、だとぉ……!?」
「まあ正確に言えば、君らと僕で、見世物になろうってわけだ。アヴァリス、君は僕と最後に士官学校で顔を合わせた時のこと覚えているかな?」
「ああ、よーく覚えているさ……! あの一件で、親父には散々叱られるわ、ほかのクラスから白い目で見られるわ、根も葉もないうわさは飛び交うわ、散々だった! それもこれも、あの時お前が剣に細工をする卑怯な手を使ったからだ!」
「え、あれを僕のせいにする!?」
士官学校で決闘をしたとき、最終的にアヴァリスの剣が整備不良で破損し、それが決着の要因にはなったが……どいうやらアヴァリスは、本気か冗談かは分からないが、自分が仕込んだのではなくリクレールが仕込んでいたと主張し始めたのだから、リクレールはあきれるばかりだった。
「まあいいや、アヴァリス的にはあの決闘は引き分けで終わった、ということでいいんだよね?」
「そうだとも! あの決闘はセレネに無理やり中止されられて、引き分けに終わっただけだ! あのまま戦えば、俺が勝っていた!」
「本当にそう思う?」
「当たり前だろ! たとえ何があっても、俺はお前に負けることはこの先絶対にない! 絶対にだ!!」
リクレールとアヴァリスのやり取りを傍で眺めているエスペランサは、アヴァリスのあまりにも現実と乖離した思考と態度を、まるで話が通じない獣のようだと感じた。
『この男はあまりにもプライドが高すぎるせいで、とうとう精神に支障をきたしてしまったようですわ。このような奇妙な人格の持ち主がいるとは、ある意味興味深いですわね』
はっきり言って、今回の戦いの結果を一切受け入れず「負けていない」と主張しているのはアヴァリスだけだ。
このような精神だからこそ、彼は「優秀」だと言われようとも失態を繰り返し、自らの品格を貶めることになったのだろう。
リクレールも、改めて会話を交わしたことで、トライゾンと違い話しても得るものがないと感じた。それゆえ、何の良心の呵責もなく、彼に個人的な恨みをぶつけることができるとも考えたのだった。
「だったら、僕ともう一度決闘する気はあるか」
「もう一度決闘、だと……?」
「僕としても、あの時決着を付けられなかったのはずっと心残りだった。もし君が勝てば、ここから自由にすると約束するけど、どう?」
そう、リクレールは再び決闘を行って、今度こそアヴァリスの命を奪う気だった。




