第404話 公開処刑
ユルトラガルド家の首都リヴォリ城は、西帝国の中でも特に軍備に力を入れた都市であると同時に、帝国中の腕自慢を階級問わず集める為の様々な施設が揃っている。
その中でも目玉は、帝都タイラスルスをも上回る大きさの闘技場で、全長350ラザル、全幅300ラザル、外壁の高さが約100ラザル(現代の建物で10階分相当)、総面積が15アランス(東京ドーム約1.3個分)もある超巨大構造物である。
収容人数は無理すれば15万人入ると言われており、これはリヴォリ城の全人口のだいたい4人に1人が集まることができるほどの規模だ。
いつもであれば軍の公開訓練に使われたり、平時に数日おきに開催される闘技大会の会場や、演劇の舞台などに使われ、だいたい観客席が半分くらい埋まれば大入りであるが…………リヴォリ城での戦いが終わってから10日経ったこの日、闘技場の観客席は今までにない大勢の人々で埋め尽くされていた。
「ついにこの日がやってきたぜ! 俺たちを散々な目に遭わせてくれた、ブレヴァン侯爵の奴らの公開処刑が見られるのが楽しみでしかたねぇ!!」
「ランツフート様もまさかこのような粋な催し物を開いてくれるとは! 徹夜で入り口に並んだ甲斐があったってものだ!」
「菓子ー! 菓子はいらんかね!」
「お菓子一つ下さーい! それと串焼きも!」
ランツフートは、厳しい籠城戦に耐え抜いた市民たちや兵士たちを慰労するのと、同じ帝国人なのに自分たちを攻撃したブレヴァン侯爵家への鬱憤を晴らすため、一部の捕虜を用いて戦勝記念闘技大会という名の公開処刑を行うことと決めた。
対象となるのは、今後帝都で正式に処刑するような重要人物以外で、かつ捕虜としての身代金が支払えない騎士や貴族、あるいは略奪の罪を重ねた一般兵などで、名目上は「戦いに勝てば捕釈する」としているが…………捕虜たちは満足な食事をあまり与えられていないせいで弱っており、戦う相手も腕利きぞろいなせいで、やっていることはもはや処刑とそう変わらない。
数日前からこの催し物のことを通達されていた市民たちは、当日どころか前日にはすでに入り口に長蛇の列を形成し、試合が始まると、もはや座る場所がないほどの群衆でごった返した。
「リヴォリ城に住むすべての者たちよ、諸君らの献身により、反逆者たちにこの城を明け渡すことなく済んだ。また、身体を張って敵の侵攻を食い止めた兵士諸君の勇敢さにも、心より感謝する。今日は目出度き戦勝を記念して、盛大に闘技大会を開催する。今日は一日思う存分楽しむとよい」
『おおおおぉぉぉぉぉっっ!!!』
ランツフートの開会宣言が、音響拡張の魔術道具を介して会場全体に響き渡ると、観客たちはいままで以上に興奮し盛り上がる。
鼓笛隊が勇ましいファンファーレを晴天に鳴り響かせると、競技場の入り口からユルトラガルド家側の勇士が早々とした足取りで姿を現し、反対側の入り口からブレヴァン侯爵家側の捕虜が無理やり兵士たちに引っ立てられてきた。
「いやだ、いやだっ! なんで俺がこんな目にっ!」
「お願いします助けてください何でもしますから……」
「何を言っても無駄だ! 大人しくわが剣の錆になるがいい!!」
「そこだーっ! やっちまえーっ!」
「見ろよあの敵の情けない姿! あれは傑作だ!」
「いけーっ! 刺せーっ!!」
血気盛んな観客からの喚声と罵声が飛び交う中で、敵役にされた捕虜たちが次々と情け容赦なく殺されていき、血飛沫が上がるたびに人々のボルテージも爆発していった。
勿論、中には本気で助かりたいと必死に抵抗し、ユルトラガルド家の戦士に反撃の手傷を負わせる者もいたが、案の定全く勝ち目はなく、一方的にやられていくばかりだった。
そして、処刑執行人の中には、紫鴉学級一の力自慢ことゼークトと副官のドルドの姿もあった。
「侯爵様公認で悪い奴らを殺せるなんて、最高じゃねぇか! 存分に楽しませてもらうぜ!」
「俺もお供しやすぜ隊長っ!」
こうして、散々に鬱憤を晴らしたユルトラガルド侯爵家だったが、夕方近くになって、いよいよこの日のメインイベントが始まった。




