第402話 本当の理解者
多忙の合間を縫ってトライゾンから様々なことを学んだリクレール。
やはり自分とは違う思想を持つ人間から得ることは非常に大きく、ここ数日間で彼やサンシール、モンセーは、士官学校では絶対に教えられないであろう、貴重な知識を数多く会得した。
そして、トライゾンもまた子供たちに自らの知識を教授していくうちに、うっすらと自分がなぜこのような末路を辿る羽目になったのかを悟り始めた。
(なるほど、私は結局人を見る目がなかったということか。裏切りや策謀が当たり前の西帝国の貴族社会の泥沼に、私はあまりにも深く入れ込みすぎた。そのせいで、自分の都合の良い者や、賛同する者しか信用できなかった。そうして私は、満身の果てに自らを滅ぼした。なんとも滑稽な…………おそらく後世の歴史に、私は愚か者の代名詞として連なるのだろうな)
トライゾンは自分の敗因を、運が悪く神に見放されたからだとすら思っていたが……自分が見下していた敵こそが、自分の本当の理解者だった事実に愕然とするとともに、自らの不見識が今回の敗北を招いたことを心の中でようやく認めた。
リクレールとしても、もし平和な時代でもトライゾンとは一切馬が合わないだろうと思ってはいるが、彼の考え方自体には頷けることも多かった。
『なるほど、主様の仰る通り、この男は暴君としては今一歩と言ったところでしたが、参考に出来る内容が大いにありましたわ』
(出来れば使いたくない知識も多かったけどね……けど、これから先、僕はアルトイリス侯爵として……何より帝国の暴君として、この人の代わりに「魑魅魍魎の巣窟」と言われる西帝国の貴族社会で生きていかなきゃならない。その時にあらかじめ知っているのといないのでは大違いだ)
特に、貴族間でひっそり使われる策謀の手段や、最後の手段……すなわち暗殺のやり方については、心優しいリクレールには受け入れがたい知識だったが、逆に言えばもしいつか敵対者が用いてきたら、知識を生かして対策することが可能になるのは非常に大きい。
基本的にエスペランサがいればリクレールが暗殺される心配はないが、ヴィクトワーレやシャルンホルストが標的にならないとも限らないからだ。
だが、そんな悪の知識の授業を受けられる日は、そう長くかからずに終わりが近づいてきた。
フランシールの捜索に関して、一定の目途がついたことで、任務に出ていた仲間たちが帰還してきたのだ。
そのためリクレールたちは、今後トライゾンと面会する時間を取ることができず、帝都を陥落させるその日まで顔を見ることすらできなくなる。
「トライゾンさん、申し訳ないけど僕とあなたの師弟関係は今日で最後になります。……敵同士とはいえ、あなたから教えてもらったことは、僕の財産の一つになった。そのことだけは、本当に感謝している」
「ふん、その様子だとフランシールの行方が分かったのだな」
トライゾンは最後の最後のプライドとして、娘の行方だけは決して口を割ろうとはしなかった。
何だかんだで、彼もそれなりに家族思いではあるようだ。
「フランシールは自由交易都市同盟の都市に身を潜めていることがわかりました。僕としては一番最悪な展開ですがね」
「やはりそうか……奴らのことはうまく使ったつもりだが、結局私は奴らに使われていたということなのだな。まったく」
トライゾンはやれやれと首を横に振る。
トライゾンとしては今回の内乱のついでに、自由交易都市同盟を西帝国のシステムに再度組み込むことを画策していたのだが、海千山千の独立商人たちはやはり一筋縄ではいかないようだ。




