第401話 奇妙な師弟関係
こうして、この日の夜からリクレールとトライゾンという元敵同士の奇妙な師弟関係が始まった。
とはいえリクレールにも日中はやることが大量にあるので、日が暮れるまでは自分の仕事に取り組み、夕食を終えてから地下牢を訪れ、深夜になるまでトライゾンと会話するというかなりハードな日常を送る羽目になる。
大きな戦いを終えてまだしばらくも経っていないにもかかわらず、休むどころかまだ忙しくなることに、さしものエスペランサも憂慮するばかりだった。
『主様……あまり根を詰めすぎると、お体に障りますわ。それに、あのような男から学ぶことなど、果たしてどれほどあることやら……』
「大丈夫、休める時になったらきちんと休むし、トライゾンさんとのやり取りもそう長くはならないと思う。少なくとも、シャルたちが捜索から戻ってきたら、トライゾンを生かしておくことはできなくなるから、今のうちにしかできないことをやっておかないと勿体ない。それに……多かれ少なかれ、将来のエスペランサのためにもなると僕は思うんだ」
『わたくしの為、ですか』
「正直、あの人がどれほど有益な情報を持っているかは僕にも分らない。けど、失敗の経験というのは、とても貴重なものだ」
リクレールの言う通り、トライゾンの教えは今後どの程度役立つかなど、今は知る由もない。
それでもリクレールは、敵側の視点から見た知識や物事について、是非とも知っておくべきだと感じた。
また、トライゾンの非公式の講義を受けたのはリクレールだけではなく、同級生の召喚術士サンシールや、車椅子の少女モンセーの二人も、比較的手が空いているのと、政治についての知見が得られればという理由で同行することになった。
「他社は自らを映す鏡のようなもの……たと言え邪悪な法とて、使い方次第で別の敵への対抗手段となりうる」
「我らにとっては西帝国を乱した奸臣だったが、その手法に見るべき部分もある。特に謀略に関する知恵は、年の功を重ねたブレヴァン侯爵ならではのものがあるだろうからな」
「そのような理由で地下牢に押しかけてくる者がまだいるのか……お前たちはつくづく物好きだな。だが……あのバカ息子に、お前たちの半分の向上心があれば……」
心情的には敵対者に自らの知識や秘伝を教えたくはないのだが、こうして真摯に教授を依頼されると、悪い気がしないから不思議なものである。
トライゾンももはや自分に残された時間は少ないと悟ったからか、端的に自分が持つ知識や手法、そして政治的知見をとめどなく語った。
領地の経営法、庶民の統治法、あるいは必要であれば為政者としての騙し方、そして秘伝の権謀術数の使い方など――――まるでリクレールたちを自分の後継者にするかのように、自らの半生で培ったことを語って聞かせた。
対するリクレールらも、時に手段を択ばないトライゾンのやり方に眉を顰めることが多々あったが、それでもそのようなやり方があることと、次にやられないための対策にするために、メモに筆を走らせていく。
そして、時には質問や意見を出すなどして、より奥深くの知識を引き出そうとする姿勢すら見せた。
この数日の間で、3人が学んで記録したことは、その後「トライゾンはかく語りき」という内容の冊子にまとめられ、後世では主に権謀術数に関する思想書として、一定の評価を得ることになる。




