第397話 最後の一人
「せっかくの祝賀会が会議で延期だなんて……いったい何考えているのかしら、あの二人は」
「そう言ってやるな。私たちが知らないだけで、余程のことが起きているのは確かだ。そうでもしなければ、一番休みたいのはあいつらだろうからな」
「いったい何の話をするんだろうか。僕にはさっぱりだ……」
リクレールとシャルンホルストは、士官学校生徒の中でも比較的重要な立場の者たち――――青狼学級級長のレムリアや、橙鷹学級のオスカー、それに紫鴉学級からはモンセーやスーシェ、
ゼークトと言ったメンバーが集められた。
彼らは事前に、今日は慰労のための宴を開く予定だと聞かされていたのだが、それが急遽中止になったことで少なからず不満を漏らしていた。
また、出席していない生徒たちもそのまま休めはしたが、パーティーが延期になったことを非常に残念がっていた。
何しろ、目下の大きな障害だったブレヴァン侯爵軍はアルトイリス軍に完全に粉砕されて粉々になり、残る敵は帝都タイラスルスにいるマルセランの直属部隊のみ。
そのマルセランたちも、こちらに反撃してくる気配はなく、情報によれば帝都の防備を必死で固めている最中であるというのだから、目下の危機などあまり考えられなかった。
リクレールが率いてきたアルトイリス軍からも、ヴィクトワーレは元より、アリシアやデルセルト、サロメなどが出席を要請された。
ヴィクトワーレは常にリクレールの傍にいたので積極的に参加してくれたが、ほかの将たちはやっとまともに休めるという段階で会議に呼び出されたことで、いささか困惑しているようだった。
「おい侯爵様よォ、ようやっとまともに休めるって時に呼び出したぁ、よくよく人使いが荒いもんだな。これでしょうもない事だったら怒るぞ」
「実はまだどこかに敵が隠れていたりするんですか? それを倒すまで休めないなんてこと、ないですよね? 私はいいんですけど、私の部下たちはもうクタクタで、休ませてあげたいなって……」
「ま、まあわたくしとて万全ではありませんが、エルヴィユ侯爵家再興の為であれば!」
「いや……みんな本当にゴメン。気持ちはよくわかるんだけど、どうしても早く伝えておかなきゃいけないことがあって」
「あー、それについては俺から話そう」
一通りのメンバーが集まったことを確認すると、シャルンホルストが改めて一同を見渡して話し始めた。
「みんなも知っての通り、ブレヴァン侯爵トライゾンは意識不明のままリクが捕縛、意識が回復した後もすっかり大人しくなったようで、ついさっき地下牢にぶち込んだ。そしてバカ息子のアヴァリスはまだ暴れる気力があったようだが、こっちもデルセルトさんたちが丁重に牢屋にぶち込んでくれた。そして長男のクレゼールはリクに降伏した後、今は館で蟄居中で、こちらもサミュエルの部下たちが見張ってくれている」
「つまりこれでアヴァリスとその一族で、残っているのは帝都にいる母親だけってことだね! それならもうあの一族は殆ど滅びる寸前……戦いで亡くなったセルニたちにも顔向けができるわ!」
「いやレムリア、それが違うんだ。ブレヴァン侯爵家の一族で、行方不明になっている家族が一人いてな……次女のフランシールの行方が掴めていないんだ」
「ブレヴァン侯爵家の次女が……」
シャルンホルストの話を聞いて、その場にいた者たちがざわつき始めた。
そこで、教師のウルスラとローレルが、思い当たる節があるようで、それぞれ口を開いた。
「私もその子のことは知っているわ。かつては東帝国の女学校に通っていて、明るく活発な子だったし、かなり優秀な成績を収めていたと聞くわ。まあ、私はどっちかと言えば、貴族の令嬢なのにしょっちゅう虫取りしていた印象があるけれど」
「ああ、私も知っているぞ。帝都の河で素潜りをして、魚を捕らえていたのを見たことがある。女学校にあのような破天荒な令嬢がいるのかと驚いたものだ」
「ははぁ……アヴァリス君とはあまり似てないんだね。ということは、そのフランシールという子が行方不明だから、探せばいいのかな」
「探せばいい、なんてものじゃないぞオスカー。もしフランシールがどこかに潜伏していたとしたらどうする? 俺たちのことを気に食わないブレヴァン侯爵家の残党が、降伏した長男ではなく、次女を担ぎ出して反乱を起こすかもしれない。いずれにせよ、放置していると面倒なことになる」
「そうか……それでリクレール君は、急いで会議を招集したというわけね。確かに、これはすぐに探し出さないと拙いわ」
事情を知った出席者たちは、話を聞いてようやくリクレールが急いで会議を招集したことに納得するとともに、明日にでも行動しないと面倒なことになるかもしれないという危機感を募らせたのだった。




