第396話 お願い事
たっぷり時間をかけてリヴォリ城の城下を練り歩いたことですっかり日が暮れた後、改めてリクレールは、シャルンホルストを伴ってユルトラガルド侯爵ランツフートに面会した。
「ランツフートさん! 本当にほんっとうに、御無事でよかったです!!」
「おうリクレール、随分と派手に暴れたようじゃねぇか。こっちは引き籠ってることだけしかできなくて、まったく、情けねぇもんだな」
「そ、そんなことないですって!! ランツフートさんが耐えてくれたおかげで、僕やシャルが頑張れたんですから! むしろ、直接助けに行けなくてごめんなさい……まるで囮のようにしてしまって」
「なぁに、お前らは俺たちユルトラガルド軍の底力を信じてくれていたのだろう? 幸い、城がぶっ壊れる寸前になったくらいで、うちの軍に目立った損害はなかったし、ブレヴァン軍の連中を一方的にボコボコにできたんだから、むしろ上出来だ。お前のような弟がいて、天国に行ったマリアもさぞかし鼻が高いだろうよ!」
ユルトラガルド侯爵ランツフートは、長期間の籠城を耐え抜いたからか、以前リクレールがあった時より幾分窶れて見えたが、その剛毅さは健在だった。
リクレールとしても、直接援軍に赴いて結果的に助けられなかったならまだしも、リヴォリ城を殆ど囮にするような作戦を立てたことで、ランツフートが戦死してしまったら、親友のシャルンホルストに申し訳ないとともに、帝国内で一生後ろ指をさされかねなかったので、ランツフートが健在だったことは彼にとっても大きな救いの一つだった。
「でだ、話は端折るが、俺に何かしてほしいことがあるそうじゃないか。シャルンからもいくつか聞いちゃいるが、改めて聞いておこうと思ってな」
「は、はいっ! まず、先の戦いで大量の捕虜を確保しましたので、牢屋を使わせてください。特にブレヴァン侯爵トライゾンと、その息子アヴァリスは、絶対に脱走できないよう厳重に地下牢に閉じ込められるようにお願いします! また、リヴォリ城の名物の一つの闘技場を数日以内に使わせてもらえるようにできませんか? どうしてもやっておきたいことがあるんです。それからそれから――――」
「まてまてまてまて、流石にそう一度に言われても覚えきれん!」
「あっ、ご……ごめんなさい!?」
「とりあえず、牢屋を使いたいんだな。それについてはお安い御用だが、流石に捕虜の人数が多くてこの城だけじゃ入りきらん。下級の貴族はほかの城の牢獄を使って、分散してぶち込むしかないな。闘技場を一体何に使うかは知らんが、それについてもすぐに手配しよう」
「ありがとうございます。あとは、この後すぐに会議を行いたいので、出来れば大勢の人が使える部屋をお借りできませんでしょうか」
「会議だと? これからまだ何か仕事しようってのか? お前たちも長期間の行軍で疲れているだろうし、今日くらいはゆっくりしてってもいいと思うぞ。せっかくうちの料理人たちも、張り切って料理を拵えてるし、何なら浴場ももうじき用意ができるんだが」
「親父、それについては俺からも頼む。リクの話をちらっと聞いただけだが、急いで確認しなきゃいけないことができてな。つーか、親父にも出席してもらいたいくらいだ」
「シャルン、お前まで……ってこたぁ、よっぽど切羽詰まっているのだろうな。仕方ねぇ、今日の宴は延期だな。せっかく作った料理は、兵士どもにでも食べてもらえばいい。すぐに大広間を開ける」
流石帝国内でも有数の武人として名高いランツフートは、子供たちが何か切羽詰まっている事情があることをすぐに悟り、歓迎の宴を中止して仕事モードに切り替わった。
リクレールとシャルンホルストは、すぐに士官学校の生徒たちや、アルトイリス軍関係者を会議室に集めるのだった。




