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第388話 ラヴェルの戦い 24

 そして、今回の戦いの勝者となったリクレールは……少しだけ離れた場所にある小高い丘の上で、一人無言で戦場を見下ろしていた。


「リク、こんなところにいたのね」

「トワ姉……」

「ほかのみんなはあんなに喜んでるのに、リクはちっとも嬉しそうじゃないのね」

「うん、今は嬉しいというより、正直ほっとした気分。僕はようやく、役目を果たすことができたんだと思って」


 将から兵まで、誰一人として勝利を喜ばない者はいないというのに、この戦いを勝利に導いた立役者であるリクレールだけは、どこか虚しそうな表情をしていた。

 まるで、みんなが喜んでいるところに水を差したくないから、あえて独りでいるという様子に、リクレールに声をかけに来たヴィクトワーレは心配そうに彼を見つめる。


「勿論、嬉しくないと言えば嘘になるよ。これでリヴォリ城は安泰だし、内乱の首謀者のトライゾンも捕えることができた。今までずっと重い荷物を背負っていたかのような重圧と不安にさ苛まれていたから、その日々がようやく終わったと思うと……やっぱり嬉しさよりも安心感の方が大きいかな」

「本当にリクはよく頑張ったわ。まだまだ認めない人はいるかもしれないけれど、少なくとも私は、リクがもう立派なアルトイリス侯爵になったって、マリアにも胸を張って言える。だから、リクももっと自分のことを誇りなさい。リクが必死に頑張ったから、目の前の奇跡を起こすことができたのだから」

「奇跡……」


 そう呟きながら、リクレールは改めて、死体で埋め尽くされて赤黒く染まった戦場を見下ろした。

 これが果たして「奇跡」の産物と言えるのか……もし本当に奇跡が起きたのなら、そもそもこのような光景は現れなかっただろうと、リクレールは思ってしまうが、流石に後ろ向きすぎると考え、ヴィクトワーレが言う通り今はこの戦いに勝てたことを奇跡だと思うことにした。


「ねえ、トワ姉。そして……エスペランサ」

「どうしたのリク?」

『如何しましたか、主様』


 今まで敢えて黙って傍に付き添ったエスペランサも含めて、リクレールは嬉しさと悲しさが混ざった複雑な表情で語り掛ける。


「僕はもう、こんな「奇跡」は二度と望まない。本当なら負けそうだったのを、シャルも含めて大勢の人に危ない橋を渡らせて、強引につかんだ勝利。そんな勝利は本当はあってはならないと僕は思う。もしこれから先、本格的に姉さんの仇うちのための軍を興すことがあれば、必ず勝てるように万全の準備を持って臨むつもりだ」

「リク……そんなことを考えていたなんて」

『素晴らしいですわ。やはり主様はわたくしがお仕えするのにふさわしいお方……主様の望みは、わたくしが必ずかなえて見せますわ』


 この日の戦いは、後世「ラヴェルの戦い」という名称で知られ、戦史に大いにインクを加えることとなる。

 一時は最大で10倍近い兵力差のあったブレヴァン侯爵軍を、あの手この手で弱体化させた末、戦場では片翼への戦力集中による一点突破から半包囲を決め、散々に打ち破ったことは、士官学校の教科書にも大々的に取り上げられることとなり、軍人になるものは必ず学ぶべき一戦とまで扱われるようになった。


 戦史上の「奇跡」とも言われるこの戦いだが、華麗な作戦を成功させた当の本人であるリクレールは、この勝利をあまり喜ばなかったことは殆ど知られていない。

 戦略で負けていた状況を、戦術で無理やりひっくり返すというのは、非常に乱暴で危険なやり方であり、下手をすれば自らの作戦によって親友が命を失ったり、味方を騙したことでリクレール自身の信用が失われる可能性もあったからだ。



 後年、ラヴェルの戦い以上に大規模な会戦に勝利し続けたリクレールが、その秘訣を臣下から尋ねられたところ、彼はこう答えたという。

「私の勝利の秘訣は、ラヴェルの戦いを二度と繰り返さなかったことだ」と――――

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