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第387話 ラヴェルの戦い 23

 こうして、ブレヴァン侯爵軍総司令官であるトライゾンが倒れたことで、ブレヴァン侯爵軍は完全に戦意を失い、逃げ出せる者は脇目も振らず戦場から離脱していき、逃げ遅れた者はなすすべなく惨殺された。

 最終的な被害は、アルトイリス軍の被害が5000人中死者が200名、重傷者が300名だったのに対し、ブレヴァン軍は戦場にいた25000人のうち、死者は1万人以上、重傷者は数え切れず、逃げ出した者も3000人近くいたという。

 運よく早目に降伏の意思を表明するなどして生き残った兵士は1000に満たなかったというのだから、いかに一方的な戦いだったかがよくわかる。


 そして、怒りが限界に達したことで鼻血を流して倒れたトライゾンだが、最終的には捨て身の勢いで突撃を繰り返して直属軍を粉砕した、ナナリーとその配下の「金色の乞食」傭兵団ドール・デ・ヴァガボンらがその身柄を確保した。


「や、やめてください! 閣下は今、命に係わる重態なのです! 降伏しますから、どうか命ばかりはお助けを……!」

「あら、命に係わる重態? それは大変ね、生きたまま捕えて来いって命令されているから、手当だけはさせてましょう。ですが……今武器を下ろしていない人は皆殺しね」

「「「う、うわぁぁぁっ!!??」


 文官たちは治療を続ける条件で見逃されたが、兵士らは容赦なくナナリーの部下たちに攻撃され、強欲な彼らの手柄とされてしまう。

 ただ、応急処置が一応功を為したのか、トライゾンはなんとかその場で一命をとりとめ、意識はすぐに戻らなかったものの、呼吸は安定した。

 ナナリーたちは一番の戦利品を入手したことを高らかに告げ、捕らえたトライゾンとその側近は、戦いがひと段落したところで改めてリクレールの元に送られることとなる。

 また、囚われたと言えば、リクレールとの一騎打ちの末、致死量を超えるのではないかと思うほどの血の噴水をまき散らして倒れたドヴォルザークも、気を失ったままリクレールの直属兵に鉄の鎖でぐるぐる巻きにされ、4人がかりで持ち上げて捕虜収容用の荷車に積み込まれた。

 全ての戦闘が停止した時、平原はブレヴァン侯爵兵の死体によってほとんど地面が見えないほど埋め尽くされ、土や草に染み付いた血の匂いは、その後数か月は取れなかったと言われる。


「みんな、よくやってくれた! 僕たちアルトイリス軍の勝利だ、勝鬨を上げろ!」

『うおーっ!!』


 自分たちの何倍もの多さの敵に対して完全勝利を収めたことで、アルトイリス軍の兵士たちは大いに歓喜し、喉がかれるまで何度も何度も勝鬨を上げた。

 各部隊を率いていた将軍たちも、ここまで鮮やかに勝てたことが信じられないと言った様子だったが、何か月にもわたる苦労が報われたことを素直に喜ぶのだった。


「なんとまあ、本当にあの大軍相手に勝つとは。長い間生きてきたが、このような伝説的な戦いの場に立てたことを誇りに思う」

「そうですわね、今の若い子たちは本当に優秀よね。ちょっと危ないところもあるけど、それも若者の特権と言ったところでしょう」


 フルトヴェングラーとジェニファーのベテラン二人は、自分たちでは思いつきもしなかった大胆な作戦を立てた若人たちを少し心配しつつも、新たな可能性を生み出すその若いパワーを心から羨ましがり、そして称賛した。


「うふふふ、今回は勲功一番は私たちね。部下は半分になっちゃったけど、お金のために死ねたなら、あの子たちも本望でしょう♪」

「むぅ、悔しいっ! あいつを私が倒せていればっ! もっともっと、強くならなくちゃ! いっぱい鍛えて、いっぱい勉強するんだ!」


 自らの命を顧みず、強敵に果敢に挑んだ末に大戦果を挙げたナナリーとその配下の傭兵団は、その代償として団員の半分を失う大損害を被っていたが、これこそ彼ら彼女たちの生きざまなのだろう。

 一方、アリシアの部隊も戦果という面では悪くなかったが、やはりドヴォルザークに一騎打ちで撃退されたことはとても悔しいようで、もっと強くなりたいと己の心に誓っていた。


「よっしゃ、まあこんなとこだろう。敵をぶった切りすぎて、剣も槍もダメになっちまった。こりゃ褒美をもらったら、もっといい剣に買い替えねぇとな」

「あら、あなたもですの? わたくしもテュレンヌも、予備の武器までボロボロですわ。うふふ、一方的な勝ち戦というのは、ここまで爽快なのですわね! 今まで生き恥を晒してきた苦労が、今日全て吹き飛びましたわ! それに……」

「それに、なんだ?」

「あなた態度と言葉遣いの割に、有能なのですわね! エルヴィユ侯爵家復興の暁には、あなたをわたくしの臣下に封じてもよろしくてよ!」

「なんでだよ! 俺の今の雇用主はアルトイリス侯爵だっての! 文句があるならあの人に直接言ってこい!」


 最高のタイミングで敵の背後を突いたデルセルトとサロメは、ともに領地を失った身であるため、今回の戦功で領地を取り戻せることを大いに期待していた。

 なお、どうもサロメがデルセルトの有能さを気に入ったらしく、この後折を見ては、彼に粉をかけていくことになる。

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