第384話 ラヴェルの戦い 20
リクレール率いるアルトイリス軍は、中央軍をコンクレイユ騎士団が拘束し、敵左翼部隊をこちらの右翼部隊が遅滞戦術で積極的な交戦を避け、時間稼ぎをしている間に、主力である左翼部隊で敵右翼部隊を速攻で撃破した。
これにより、トライゾン率いるブレヴァン軍中央部隊は敵に右わき腹を無防備に晒すことになっただけでなく、そこに追いやられた味方部隊が殺到してきたことで、たちまち収拾がつかなくなってしまった。
彼らがもし、ドヴォルザークやロパルツだけでなく、それなりに有能な武将をもうあと4、5人確保していれば、このように兵士たちの統率が取れず、味方同士で足を引っ張りあう状況は避けえただろうが、残念ながらそうはならず、今や数が多いこと自体が却ってブレヴァン軍の弱点となってしまっていた。
『主様、目論見通りわが軍は敵の側面から包囲し、アリシア様の部隊は敵の後方を脅かしつつありますわ。あともう一押しでございます』
(とはいえ、兵士たちも連戦でそろそろ疲れてくるはずだ。敵が体勢を立て直す前に押し切らなければ……!)
有利な状況を作ってもなお、リクレールは危険な状態になっている味方がいないかを確認しながら、反時計回りに戦場を駆け抜ける。
そしてまずは、今なお圧倒的な強さでボルツ伯爵率いる敵前衛部隊を抑えつけているヴィクトワーレたちのところに戻ってきた。
「トワ姉! こっちは大丈夫そう?」
「リク! 無事だったのね、良かったわ! その様子だと、あのドヴォルザーク将軍を倒せたようね……リクが倒せたって言うのが、未だにちょっと信じられないけど、感謝するわエスペランサ」
『まあまあ、もっと褒めていただいても構いませんわ!』
(くっ……やっぱりそのドヤ顔がムカッと来るわ……)
リクレールとヴィクトワーレにしか見えない姿で豊かな胸を張るエスペランサ。
イラっとするが、この魔剣の力なくしてリクレールがドヴォルザーク将軍を倒すことはできなかったのは事実なので、逆らうことなどできるわけがなかった。
「と……とにかく、左翼部隊が突破したのなら、私たちも手加減する必要はないわよね」
「うん、もちろんだよトワ姉。僕はこれから右翼部隊の方に行くから、思う存分暴れてほしい。ただし、敵が多いからあまり無理しないでね。敵が総崩れになった時が本番だから」
「ええ勿論、リクの作戦は私が完璧に完成させて見せる! さあみんな、ここから一気に押し切るわよ!」
「待ってました! 攻撃ならこのマティルダにお任せください! 最低100人は血祭りにあげてやりますよ!」
「そんなことする前に武器が壊れるわよ……私なら討ち漏らしなく、丁寧に血祭りにあげて見せます」
(どっちも血祭りにするのは変わりないんだ)
相変わらず血気盛んなマティルダと、冷静に見えてこちらも熱い闘魂を持つベルサを筆頭に、コンクレイユ侯爵騎士団は待ってましたとばかりに喚声を上げると、満を持して攻勢に打って出た。
何と彼女たちは先ほどまで敵を圧倒していたにもかかわらず、体力を温存しながら戦っていたようで、騎士団が一斉に攻撃に転じたことで停滞していた中央の戦場が、あっという間に阿鼻叫喚地獄と化した。
特に先頭を行く紅い鎧に赤いマントに身を包んだマティルダは、その手に持ったグレイヴで左右手当たり次第に敵兵を斬りまくり、下手をすれば最低100人斬るというのを有言実行しそうな勢いであった。
「お、おおぉ……ま、拙い! コンクレイユ騎士団はまだ本気ではなかったのか!? このままでは我が部隊は全滅してしまうぞ!?」
ただでさえさっきまで一方的な劣勢に立たされてたというのに、それをさらに上回る怒涛の攻勢を受ける羽目になったボルツの部隊は、ものすごい勢いでその数を減らしていき、気が付けば司令官であるボルツのすぐ目の前まで敵が迫りつつあった。
かくなる上は自ら戦うほかないと、彼は剣を抜いて構えたが…………そこに一本の投げ槍が飛んできて、ボルツが気が付く間もなく、彼の心臓を貫通した。
「ゴ……ゴホッ!? これが……裏切り者の、末路……っ」
トライゾンの調略で寝返ったことで、長年仕えたユルトラガルド家を危機に陥れる元凶を作った男、ボルツ。
帝国内乱の主要な戦犯の一人ともいえるこの重量人物を討ち取ったのは、荒れ狂う戦場の中で常に冷静な視野を保っていたベルサだった。
ベルサの得意技である百発百中の投げ槍は、彼女の有効射程ぴったりになった瞬間に、逃げ惑う敵兵の頭上を矢のような速度で飛び越えて、見事敵将を射抜いたのであった。
(ふふっ、どうかしらマティルダ)
(むむむっ! 今回はベルサに勝ちを譲ってあげるわ!)
やや離れた距離で一瞬でアイコンタクトを交わした二人は、すぐに前に向き直って、再び敵の掃討に戻る。
こうして、コンクレイユ騎士団はトライゾンの思惑に反して、ほとんど疲労がないまま敵本陣に迫ったのであった。




